「やる気がないわけではないんです。ただ、なぜか進まないんですよね。」
定例では前向きな発言が出るし、目標も共有した。1on1で困りごとも聞いた。それなのに、翌週の定例でも、同じタスクが同じ場所に止まったまま。そんな場面に、心当たりはないでしょうか。
もちろん、マネージャーもメンバーも、手を抜いているわけではありません。期限を切り直し、進捗を確認する回数を増やし、ツールも整えてきた。それでも仕事が動かないとき、話はつい「本人の主体性」や「もっと危機感を」という方向へ向かっていきます。
けれど、本人に進める意思があるにもかかわらず、同じ仕事が何度も止まり続けているのだとしたら、別の見方も必要かもしれません。人の気持ちだけではなく、「仕事そのものが、どこで止まっているのか」を見てみるという視点です。
この記事では、私たちが実務のなかで見てきた仕事の停滞を、「保持」と「分解」という2つの観点から整理します。そのうえで、それぞれにどんな打ち手が考えられるのか、そして目の前の仕事がどちらで止まっているのかを、明日の定例から確認できる3つの問いまで紹介します。
足りないのは、気持ちへの働きかけだけではなく、仕事の「止まり方」を見分ける視点なのかもしれません。
1. 「主体性の問題」にすると、打ち手が励ましに寄っていく
仕事が止まったとき、本人の気持ちに目を向けること自体は、間違っていません。声をかけ、困っていないかを聞き、期待を伝えることも必要です。実際、ちょっとした励ましをきっかけに、仕事が動き出すこともあります。
ただ、気持ちの問題だけとして扱うと、残るものがあります。打ち手が「もっと頑張ろう」「期限を守ろう」という方向に寄っていき、止まっている仕事そのものの形には、誰も手を触れなくなるからです。
たとえば、「あの件、どうなってる?」「すみません、今週中にはやります」「頼むね」というやり取りです。この会話で期限は再確認できます。しかし、本人がなぜ手をつけられていないのか、その構造自体は変わっていません。結果として、翌週も同じような会話が繰り返されることがあります。
そこで私たちが加えたいのが、「その仕事は、どう止まっているのか」という視点です。人に理由を探す前に、なぜその人はそこで手を止めているのかを、仕事の側から見てみる。「誰が止めているのか」ではなく、「どこで止まっているのか」を見る。 そうすると、それまで「主体性」という一言でまとめていた問題を、もう少し具体的に扱えるようになります。
では、仕事の「止まり方」を見るとは、具体的にどういうことでしょうか。
2. まず見てみたい、仕事の2つの「止まり方」
私たちは、本人に仕事を進める意思があるのに手が止まっている場面を見るとき、まず「保持」と「分解」という2つの観点から考えています。
これは、仕事が止まる原因を網羅した学術的な分類ではありません。実際には、権限がない、必要な情報が届いていない、他者の判断を待っているなど、別の理由で仕事が止まることもあります。あくまで、「やる意思はある。それでも、なぜか手が動かない」という場面を整理するために、私たちが実務のなかで使っているフレームワークです。
その2つが、「保持で止まる」と「分解で止まる」です。
「保持で止まる」とは、やることそのものはわかっているものの、覚えておく用件が多く、目の前の仕事に手が回らない状態です。たとえば、「あとで返信しよう」と思っているメールが5通、「来週までに確認しよう」と思っている資料が3つある。ひとつの仕事を進めている間にも、別の用件を忘れないようにする負担が続いています。
一方、「分解で止まる」とは、仕事のゴールは見えているものの、そこまでの道筋を具体的な行動に落とすところで止まっている状態です。「新しい研修制度をつくる」「取引先との関係を立て直す」といった仕事は、ゴールだけを見ても、最初の一手がすぐには決まりません。
ここでいう「分解」とは、仕事を必要以上に細かく管理することではありません。「最初の15分で何をするか」が決まっている状態をつくること、と言い換えてもよいかもしれません。

見た目は、どちらも同じ「進んでいない仕事」です。しかし、保持で止まっている仕事と、分解で止まっている仕事では、手をつけるべき場所が違います。
止まっている場所が違えば、効く打ち手も変わります。
では、それぞれの止まり方に対して、何を置けば仕事は動きやすくなるのでしょうか。
3. 保持で止まっている仕事には、「受け皿」を先に置く
保持で止まっている仕事に必要なのは、覚えておかなくてよい状態をつくることです。つまり、頭の中にある用件を移しておける「受け皿」を、先に置いておく。共有のタスク一覧でも、紙のメモでも、決まった置き場所のフォルダでもかまいません。
反対に、受け皿を置かないまま「忘れないでね」と伝えても、抱えているものは減りません。ひとつの仕事をしている間も、別の用件を覚えておかなければならない状態が続きます。大切なのは、「覚えておく」ことを頑張るのではなく、「覚えておかなくても戻れる状態」をつくることです。
このことに気づいたきっかけは、私自身の小さな習慣でした。出張先でその場限りのメモ用紙に書いていたときは、あとで書き写す必要があるため、「戻ったら転記する」という用件を頭のどこかに残していました。ところが、持ち帰れるメモを持ち歩き、いつでも同じ場所に書けるようにしたところ、頭の中で覚えておかなければならない感覚が軽くなったのです。
チームに置き換えると、たとえば「気になったことは、このチャンネルに投げておけば、週1回まとめて拾う」という約束がそれにあたります。書いた人が、その後もずっと覚えておく必要はありません。頭の中に置いていた仕事を、チームの仕組みの側に移せるようになります。
保持で止まっている人に必要なのは、記憶力を上げることより、安心して手放せる置き場所です。
では、もう一方の「分解で止まる」仕事には、何を置けばよいのでしょうか。
4. 分解で止まっている仕事には、「人」を先に置く
分解で止まっている仕事は、受け皿を置いただけでは動き出しません。タスクとして書き出すことはできても、「では、最初に何をするのか」が決まっていないからです。
ここで私たちが有効だと考えているのが、一緒に手順を割ってくれる人を置くことです。指示を出す人でも、代わりに仕事をする人でもありません。
「まず何から始めるか」を、一緒に具体化する人です。
私自身、この違いに気づいたのは、自分の部屋の片付けがきっかけでした。ゴールは「すっきりした部屋」と見えているのに、何週間も手がつかない。ところが、片付けの得意な知人に「一緒にやってほしい」とお願いしたとたん、動き出す感覚がありました。
さらに、清掃をプロに頼んだ翌朝は、毎日つけている「朝の動き出しやすさ」の記録も、それまでより高い値になりました。もちろん、これは私個人の記録であり、この観察だけから「人が入ったから動き出しやすくなった」という因果関係を示せるものではありません。ただ、自分のなかでは、実際に片付けが進んだことだけでなく、「一人でどこから手をつけるか考え続ける状態」が変わったことも、大きかったように感じています。
チームで言えば、止まっている仕事の担当者と30分だけ並んで座り、「最初の15分で何をするか」を一緒に決める時間がそれにあたります。進捗を監視するのでも、細かく指示するのでもなく、手順に割るところだけを隣で一緒に担う。ここでいう「隣に座る」とは、そのための伴走を意味しています。
分解で止まっている仕事に必要なのは、催促より、隣で一緒に最初の一手をつくる人です。
「次に何をするか」を決めることは、行動科学でも研究されている
ここで、私たちのいう「分解」と接点のある考え方をひとつ紹介します。心理学では「Implementation Intentions(実行意図)」、一般には「If-Thenプランニング」と呼ばれる方法が研究されています。これは、「もしXという状況になったら、Yという行動をする」という形で、目標を具体的な状況と行動に結びつける方法です。
たとえば、「資料をつくる」とだけ決めるのではなく、「明日の朝9時にPCを開いたら、まず資料の見出しを3つ書く」と決める。こうすることで、「やろうと思っている」という意図から、実際の行動へ移りやすくする考え方です。GollwitzerとSheeranによる2006年のメタ分析では、94の独立した検証を対象に、こうした実行意図が目標達成に与える効果が検討され、全体として中程度から大きい効果が報告されています。
ただし、私たちがここでいう「分解」とIf-Thenプランニングは、同じものではありません。If-Thenプランニングは、特定の状況と行動をあらかじめ結びつける方法であり、「誰かと一緒に手順を割ること」の効果を直接示した研究ではないからです。それでも、大きな目標を掲げるだけでなく、実行できる具体的な行動まで落とすことが重要だという点では、共通する部分があります。
5. 人が入ると、仕事は「片付く前」から動き出す
片付けの話には、続きがあります。知人と一緒に片付ける日程が決まった時点では、まだ部屋は何ひとつ片付いていません。それでも、毎日つけていた記録を見ると、その時点から「わくわく感」の値が上がっていました。結果が出る前に、気持ちの側が先に動いていたのです。
もちろん、この記録も一人の個人的な観察にすぎません。日程を決めたことが「わくわく感」を上げたと、この記録だけから断定することはできません。ただ、この経験をきっかけに、分解で止まっている仕事について、私たちはひとつの見方をするようになりました。
それは、手順がすべて決まることだけではなく、「その手順を一緒に考える人がいる」と決まることそのものが、仕事への向き合い方を変える場合があるのではないか、ということです。行き先の見えない仕事を一人で抱えている状態から、「ここは一緒に考えられる」という状態に変われば、まだ成果が出ていなくても、仕事に向き合うときの負担は変わるかもしれません。
これを組織に置き換えると、施策の中身をすべて固めてから担当者を決めるのではなく、「誰が一緒に考えるのか」を早い段階で決める、という順番も考えられます。もちろん、伴走する人を決めるだけで成果が出るわけではありません。しかし、分解できずに止まっている仕事であれば、中身をさらに詰めることよりも、まず一緒に最初の一手をつくる人を置くことが、動き出すきっかけになる場合があります。
仕事を前に進めるために必要なのは、完成した答えではなく、「一緒に最初の一手を決める人」である場合があります。
では、目の前で止まっている仕事が「保持」と「分解」のどちらに近いのか。次は、それを明日の定例から確認するための3つの問いを見ていきます。
6. 明日の定例で使える、「止まり方」を見分ける3つの問い
ここまで、「保持」と「分解」という2つの止まり方を見てきました。では、目の前で止まっている仕事がどちらに近いのか、どう見分ければよいのでしょうか。
本人に「保持ですか、分解ですか」と聞いても、すぐには答えにくいものです。そこで、定例や1on1で止まっている仕事が見つかったときは、次の3つの問いから確認してみてください。
- 問1:「この件、次にやることを一言で言うと何ですか」
- 問2:「この件のほかに、いま覚えておこうとしていることは、いくつありますか」
- 問3:「誰かと30分一緒にやるとしたら、どこを一緒にやりたいですか」
問1は、「分解」で止まっていないかを見るための問いです。「まず○○さんに確認する」「資料の構成を3つに分ける」のように具体的な行動が返ってくれば、少なくとも最初の一手は見えています。反対に、「企画を考える」「関係者と調整する」のように大きな仕事の名前しか出てこない、あるいは答えに詰まるのであれば、まだ仕事を具体的な行動まで分解できていない可能性があります。
問2では、「保持」の負担を探ります。覚えておこうとしている用件がいくつもあるなら、「このうち、今日は覚えていなくていいものはどれですか」と続けてみる。共有のタスク一覧や決まったチャンネルなど、あとから確実に戻れる場所へ移せれば、その場で頭の中から手放せる仕事をつくれます。
問3は、「一人で分解し続けていないか」を確認する問いです。「最初の手順を一緒に決めたい」「この資料の構成だけ相談したい」といった答えが返ってきたら、その場で30分の予定を入れる。相談内容をすべて整理してから予定を入れるのではなく、「何をすればいいかわからない」状態そのものを、一緒に扱う時間をつくります。

ここで大切なのは、この3つの問いを「保持か、分解か」を判定するテストにしないことです。仕事が止まる背景には、権限不足や情報不足、他者の判断待ちなど、別の要因もあります。
たとえば、問1で「次にやること」が明確に答えられ、問2でも抱えている用件がそれほど多くない。それでも仕事が止まっているなら、「誰の承認を待っているのか」「必要な情報は揃っているか」「そもそも今、この仕事を優先できる状態なのか」と、別の阻害要因を見る必要があります。
3つの問いの目的は、人を分類することではありません。止まっている仕事の、どこに手を入れればよいのかを見つけることです。
そして、問いを詰問にしないことも重要です。「なんで進んでいないの」と聞くより、「どこで止まっているか、一緒に見てみよう」と問いかける。止まっている理由を本人に説明させるためではなく、仕事を前に進めるために、一緒に構造を見るための問いとして使います。
→ 会議で相手の「出番」をつくる方法については、記事末尾の関連記事②もご参考ください。
7. 「やる気を引き出すチーム」から「止まり方を見分けられるチーム」へ
チームの仕事が止まるたびに、私たちはつい、人の気持ちに理由を探します。もちろん、気持ちに寄りそうことは欠かせません。ただ、それだけに頼っていると、「なぜ動かないのか」という理由を人の側に積み上げ、止まっている仕事の形そのものには手をつけないままになることがあります。
止まり方を見分けられるチームでは、交わされる言葉が変わります。「頑張って」の代わりに、「一度、置き場所を決めよう」「30分だけ一緒に最初の手順を考えよう」という言葉が出てくる。個人の意欲だけに仕事の前進を委ねるのではなく、止まり方に合わせて、仕事が動きやすい環境をつくる。 それが、このフレームをチームで使う意味だと考えています。
一度、チームの今週のタスク一覧を思い浮かべてみてください。2週間以上動いていない仕事はないでしょうか。その仕事について、「次にやること」を担当者が一言で言えるか。覚えておこうとしている仕事を、安心して手放せる場所があるか。そして、最初の一手を一緒に考える人がいるか。ここまで確認すると、「進んでいない」という同じ見た目のなかにも、違いが見えてきます。
まずは次の定例で、止まっている仕事を1件だけ選んでみてください。そして、問1の「この件、次にやることを一言で言うと何ですか」と聞いてみる。具体的な一手が出てくるかどうかを見るだけでも、その仕事のどこを次に確認すればよいかが見えやすくなります。
メンバーは前向きなのに、仕事が進まない。そのとき本当に問うべきなのは、「誰のやる気が足りないのか」という話ではないのかもしれません。自分たちのチームで止まっている仕事は、いま、どんな「止まり方」をしているでしょうか。
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②ミドルマネジメント|丁寧に説明しても、なぜ現場は動かない? ─会議に足りない「出番」のつくり方
③部下育成|同じ忙しさでも「伸びる人」と「消耗する人」は何が違う? ─分かれ目は「苦しさの種類」
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一人ひとりが、仕事の止まり方を一緒に見分けられる組織へ
今日から始められるのは、止まっている仕事を1件選び、3つの問いのうち1つを聞いてみることです。チームであれば、定例の最後の5分で「保持か、分解か、それとも別の理由か」を一緒に考えるだけでも、これまでの励ましとは違う会話が生まれます。
ただ、同じような仕事の停滞が、複数の人や複数のチームで繰り返されているなら、個人の工夫だけでは解決しないこともあります。「どこに仕事を置くのか」「困ったとき誰と一緒に考えるのか」「どこまで自分で判断できるのか」といった仕事の進め方そのものが、組織のなかで暗黙のルールになっている可能性があるからです。
個人の「仕事が進まない」が繰り返されるとき、そこには組織の仕事の進め方が表れていることがあります。
私たちは、こうした目には見えにくい仕事の進め方や判断の前提まで含めて、組織の「OS」と捉えています。そのOSを、経営や事業の目指す方向に合わせて捉え直し、組織の日々の行動までつなげていく。それが、Bulldozerが取り組む「カルチャーエンジニアリング」の領域です。
参考文献・出典
Peter M. Gollwitzer (1999), “Implementation Intentions: Strong Effects of Simple Plans,” American Psychologist, 54(7), 493–503. DOI: 10.1037/0003-066X.54.7.493
https://psycnet.apa.org/doiLanding?doi=10.1037%2F0003-066X.54.7.493
Peter M. Gollwitzer & Paschal Sheeran (2006), “Implementation Intentions and Goal Achievement: A Meta-analysis of Effects and Processes,” Advances in Experimental Social Psychology, Vol. 38, pp.69–119. DOI: 10.1016/S0065-2601(06)38002-1
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0065260106380021
※本文中の「朝の動き出しやすさ」「わくわく感」は、筆者本人が日々記録していた個人記録に基づく観察です。研究データとして提示するものではなく、この記録のみから因果関係を示すものではありません。
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