「いつでも相談してね、とは言っているんです。でも、実際に声がかかるのは、問題が大きくなってからなんですよね。」
部下を持つ立場の方から、こうした声を聞くことは少なくありません。
もちろん、何もしてこなかったわけではないはずです。1on1の時間をとり、朝礼では「気軽に声をかけて」と伝え、席にいるときはなるべく表情をやわらかくしてきた。それでも、相談は来ない。来たとしても、「もっと早く言ってくれれば」というタイミングになってしまう。そんな経験に、心当たりはないでしょうか。
一方で、部下の側に立つと、別の景色が見えてきます。「話しかけたいけれど、忙しそうで声をかけにくい」「言っても、どうせ聞いてもらえないだろう」。上司は待っていて、部下も本当は話したい。それなのに、会話が生まれない。では、この行き違いは、どこから生まれるのでしょうか。
この記事では、職場の「話しかけにくさ」を、上司の人柄だけでなく、職場の条件と、お互いの推測の重なりとして考えます。そのうえで、推測を確かめるための3つの問いと、明日から使える「断り方の型」まで整理します。雰囲気づくりの心がけというより、声をかける前の数秒を変える話です。
上司は「相談してほしい」と思っている。部下も、本当は話したい。それでも会話が生まれない。その間には、まだ確かめられていない「だろう」があるのかもしれません。
1. 「いつでも相談して」と言っているのに、なぜ相談されない?
相談が来ないとき、上司が自分の振る舞いを見直すこと自体は、間違っていません。表情や声のトーン、忙しさの見せ方は、たしかに相手の話しかけやすさに影響します。「話しかけやすい上司になろう」という努力には、意味があります。
ただ、それを上司個人の人柄の問題としてだけ扱うと、残る問題があります。いくら本人が気をつけても、会議が続いて席にいなければ、そもそも声をかける機会がありません。事務所と現場が離れていれば、相手の様子を見ることもできない。つまり、人柄を磨く努力が、職場の条件に打ち消されてしまうことがあるのです。
さらに見落としやすいのが、部下の側にも、声をかけない理由があることです。「今は忙しそうだから、あとにしよう」。この判断は、怠けや遠慮というより、相手を気遣った結果として生まれています。だとすれば、話しかけにくさは、どちらか一方だけの問題ではないのかもしれません。
「話しかけにくい上司なのか」と人柄を問う前に、「なぜ、その人は声をかけずにいることを選ぶのか」と考えてみる。すると、上司の性格とは別のところに、声がかからない理由が見えてきます。
まずは、その理由を生む職場の条件から見ていきましょう。
2. 話しかけにくさは「人柄」だけではない。時間・距離・合図の3つの条件
声がかからない職場を見ていくと、共通する条件がいくつか見えてきます。これは学術的な分類ではなく、私たちが実務のなかで整理したフレームワークです。話しかけにくさの原因をすべて説明するものではなく、「声をかける前に迷う」場面を見るための見取り図だと考えてください。
時間:会議や打ち合わせが続き、相手が席にいない
距離:働く場所が離れていて、相手の様子が見えない
合図:「今、話しかけていいか」が外から分からない
1つめの「時間」は、いちばん見えやすい条件です。管理職の予定が会議で埋まっていると、部下が相談しようと思ったときには、もう相手がいません。戻ってきたときには、次の会議が迫っている。こうしたすれ違いが何度か続くと、相談は「わざわざ時間をとってもらうほどのことではない」ものに変わっていきます。
2つめの「距離」は、物理的な離れ方です。事務所と現場が別の建物にある、フロアが違う、同じ部屋でも席が遠い。相手の表情や手元が見えなければ、今が声をかけていいタイミングなのかを判断する材料がありません。また、マスクや険しい表情のように、近くにいても様子が読み取りにくい場合も、ここに含まれます。
3つめの「合図」は、見落とされやすい条件です。時間があり、距離も近い。それでも、相手が集中しているのか、手が空いているのかが外から分からなければ、声をかける側は迷います。そして迷ったとき、多くの人は「やめておこう」を選ぶのではないでしょうか。

ここでいう「条件」とは、職場の欠点を探すという意味ではありません。会議が多いことにも、事務所と現場が離れていることにも、それぞれ理由があります。見たいのは、その条件そのものの良し悪しではなく、その条件が、声をかける前の一瞬にどんな迷いを生んでいるかという点です。
※ 職場の空間が人の振る舞いに与える影響については、記事末尾の関連記事②もご参考ください。
話しかけにくさは、人柄より先に、時間・距離・合図という職場の条件から生まれている場合があります。
ただ、条件だけでは説明しきれないこともあります。同じ条件のもとでも、声をかける人と、かけない人がいる。では、その差はどこから来るのでしょうか。
3. 上司も部下も、相手を思って「だろう」で止まっている
職場の条件の上に重なるのが、お互いの推測です。この記事では、相手に確かめないまま「きっとこうだろう」と判断することを、「だろう」と呼びます。そして職場の話しかけにくさには、上司側と部下側、両方の「だろう」が関わっているように見えます。
上司側の「だろう」:「困ったら、向こうから来るだろう」「言わなくても、伝わっているだろう」
部下側の「だろう」:「忙しいから、邪魔になるだろう」「言っても、聞いてもらえないだろう」
上司は、「いつでも相談して」と伝えた時点で、扉は開いていると考えます。困ったら来るだろう、と。一方の部下は、上司の予定が埋まっているのを見て、今は邪魔になるだろう、と判断する。どちらの推測も、相手を思いやった結果です。
ところが、この2つが重なると、誰も声をかけない状態ができあがります。上司は「相談がないのは、困っていないからだ」と受け取り、部下は「やはり声をかけにくい」と感じる。そのうえ、一度ついた「話しかけにくい」という印象は、確かめられないまま次の場面にも持ち越されます。こうして、互いの推測が、互いの推測を強めていきます。

ここでいう「だろう」は、思い込みの激しい人が抱える偏見という意味ではありません。むしろ、相手の事情を考えられる人ほど、「今は忙しいだろう」と先回りすることがあります。気遣いから生まれた推測は、悪意がないぶん、わざわざ確かめる必要を感じにくい。だからこそ、職場に長く残りやすいのではないでしょうか。
上司も部下も、相手を思っている。それでも、確かめない「だろう」が重なると、誰も悪くないのに、誰も話さない状態が生まれます。
では、確かめられないまま残った「だろう」は、どうすれば答え合わせできるのでしょうか。
4. 同じ「もっと話したい」なのに、なぜ会話が生まれなかったのか
この「だろう」のすれ違いを考えるきっかけになったのが、私たちが伴走した、ある食品メーカー(従業員数百名規模)の工場でのワークショップです。
はじめは、管理職と若手社員、それぞれ別の回で話を聞いていました。すると、立場は違っても、どちらからも「もっと話したい」「話しやすい職場にしたい」という声が出てきました。お互いに話したいと思っている。それなのに、その思いは相手には伝わっていませんでした。
そこで次の回では、管理職と若手が同じ場に座りました。「本当は、どうだったらいいか」をそれぞれが話し、今度は、その出来事を反対側から見ていた人が自分の事情を話す。そうやって一つずつ確かめていくと、それまで「こうだろう」と思っていたことと、相手が実際に考えていたことの違いが見えてきました。
終了後のアンケートでは、「話しかけてもいいんだと思った」という声がいくつもありました。管理職からは、「困ったら話しかけてくれると思っていたが、実は自分が話しかけにくさを出していたかもしれない」。若手からは、「意見を言っても無駄だと思っていたが、管理職は話してほしいと考えていた」。同じ職場にいながら、お互いが相手の気持ちを違って捉えていたことが、対話によって少しずつ見えてきたのです。
また、アンケートには別の受け止め方もありました。「知らなかったと思うことは、あまりなかった」という回答もあれば、「話しかけにくい雰囲気を、あえて出している場合もあるのではないか」という意見もありました。たしかに、集中したいときに近寄りがたさを出すこと自体が、仕事を進めるための工夫になっている場合もあります。
この一つの事例だけで、「同じ場で話せば、話しかけにくさが解消される」とまでは言えません。ただ、この現場から見えてきたことがあります。上司が「話してほしい」と思っていても、部下がそれを知っているとは限らない。部下が「話したい」と思っていても、上司がそれを知っているとは限らない、ということです。
上司がいくら自分の振る舞いを見直しても、部下の側の「だろう」は見えません。反対に、部下がいくら勇気を出そうとしても、上司の側の「だろう」は分かりません。「だろう」の答え合わせには、両方の立場が同じ場にそろい、それぞれが見ていたものを確かめる時間が必要です。
とはいえ、毎回ワークショップを開くわけにはいきません。では、日々の仕事のなかで「だろう」を確かめるには、何を手がかりにすればよいのでしょうか。
5. 明日から使える。「だろう」を確かめる3つの問い
このワークショップでは、話し合いの前に、一人ひとりが自分の場面を書き出す準備の時間をとりました。そのときに使ったのが、次の3つの問いです。ワークショップのような特別な場だけでなく、日々の仕事にもそのまま持ち込めます。
問1:本当は、どうだったらいい?
問2:でも、どこで止まっている?
問3:本人に、聞いてみたいことは?
問1は、不満を願いに言い換えるための問いです。たとえば「上司が捕まらない」という不満は、「相談したいときに、5分だけ話せたらいい」という願いに言い換えられます。不満のままでは相手を責める言葉になりやすいのに対して、願いの形にすると、相手も一緒に考えやすくなります。
問2は、止まっている場所を探す問いです。ここで、2章で見た「時間・距離・合図」の3つが役に立ちます。相手が席にいないのか、様子が見えないのか、今話しかけていいかどうかが分からないのか。止まっている場所が分かれば、人を変えなくても手を打てる場合があります。
問3は、推測を質問に変える問いです。「忙しいだろう」を「今、5分いいですか?」に、「聞いてもらえないだろう」を「この件、どう思いますか?」に言い換える。推測のままでは何も起きませんが、質問にすれば、相手から答えが返ってきます。

ここで大切なのは、3つの問いを相手を問い詰める道具にしないことです。「なぜ相談してくれないの?」と聞けば、相手は責められていると感じるかもしれません。問いの目的は、誰が悪いかを決めることではなく、どこで会話が止まっているのかを一緒に見ることにあります。
「だろう」をなくすために必要なのは、相手の気持ちをもっと上手に想像することではありません。推測を短い質問に変えて、本人に確かめることです。
ただ、問いを持っていても、声をかける側の迷いがすべて消えるわけではありません。最後に残るのは、「声をかけて、迷惑だったらどうしよう」という不安です。では、この不安はどう扱えばよいのでしょうか。
6. 「いつでも相談して」より先に決めたい、話しかけられたときの3つの返し方
声をかける側が恐れているのは、断られることそのものより、断られたときの気まずさかもしれません。相手が本当に忙しかったら、邪魔をしてしまう。嫌な顔をされたら、次からもっと声をかけにくくなる。この不安があるかぎり、「いつでも相談して」という言葉だけでは、背中を押しきれません。
先ほどのワークショップの終盤で、経営トップから出た一言があります。忙しかったら「ごめん、あと5分後でいいかな」と言えばいい。自分たちは聞くのが仕事だから、という趣旨の言葉でした。この言葉は、最後に参加者が一人ずつ話す時間にも、「『5分待って』を口癖にしたい」という形で出てきています。
この言葉から私たちが受け取ったのは、話しかけやすさは「いつでも応じます」という約束だけでなく、「今は応じられないときに、どう返すか」を先に決めておくことでも生まれるのではないかという見立てです。断り方が決まっていれば、声をかける側は、断られても関係が悪くなるわけではないと分かります。声をかけられる側も、無理に手を止める必要がなくなります。結果として、両方の負担を小さくできます。
たとえば、次のような返し方です。
「ごめん、いま手が離せないから、5分後でいいかな」:今は難しいが、すぐ戻ると伝える
「今日の16時なら落ち着いて話す時間が取れそうだよ」:今は難しいが、確実に話せる時間を返す
「急ぎなら今聞くけど、どう?」:急ぎかどうかを、相手に選んでもらう
どれも、ただ断って終わるのではなく、次の約束を相手に渡している点が共通しています。ここでいう「断り方」とは、相談を後回しにするための言い訳ではありません。声をかけた人が、行き場を失わないための受け皿です。
「いつでもいいよ」と伝えることに加えて、「今が無理なら、こう返す」を決めておく。そうすれば、部下は「今話しかけていいか」を完璧に見極める必要がなくなります。まず声をかけてみて、難しければ上司から次のタイミングを返してもらえるからです。
話しかけやすい上司とは、いつでも手を止められる上司ではありません。今は話せないときにも、相手が次にどうすればよいかを返せる上司です。
では、こうした小さな言葉の型が職場に広がった先には、どんな組織があるのでしょうか。
7. 「察し合う職場」から「確かめ合える職場」へ
職場では、相手の事情を察して行動する場面が少なくありません。「忙しそうだから、今はやめておこう」「言わなくても分かってくれるだろう」。相手を気遣い、先回りして考えること自体は、大切なことです。
ただ、察することだけに頼っていると、「だろう」が答え合わせされないまま積み重なっていきます。上司は「困ったら来るだろう」と待ち、部下の人は「忙しいだろう」と声をかけるのをためらう。どちらも相手を考えているのに、結果として会話が生まれなくなることがあります。
「察し合う」だけでなく、「確かめ合える」。そんな職場に変えていくことが大切です。
たとえば、部下の人は「忙しそうだし、今は声をかけないほうがいいかな」と迷ったら、「今、5分いいですか?」と聞いてみる。上司も、「何も言ってこないから大丈夫だろう」と決めつけず、「最近どう? 何か困ってることない?」と声をかけてみる。
反対に、部下の人から声をかけられたとき、本当に手が離せないこともあります。そんなときは、「ごめん、今ちょっと手が離せないから、5分後でもいい?」と返して、あとから自分で声をかける。お互いが相手の様子を想像するだけで終わらず、一言確かめる。そんなやり取りを増やしていくことが、「だろう」のすれ違いを減らす一歩になります。

ワークショップで集めた「だろう」の代わりに持ちたい言葉も、大きく3つの方向に分かれていました。「だろう」をやめる。こちらから声をかける。まず動いてみる。どの言葉を選ぶかは、その職場の人たちが決めることです。それでも、どの方向にも共通していたのは、推測だけで止まらず、一歩相手に近づくことでした。
まとめ|まずは、自分の職場にある「だろう」を一つ確かめてみる
ここまで読んで、ご自身の職場の普段のやり取りを思い浮かべてみてください。
- この1週間で、「忙しそうだから」と声をかけるのをやめたことはあるか
- 部下や同僚は、あなたに今話しかけていいかどうかを、外から判断できるか
- 「相談がないのは、困っていないからだ」と受け取っている相手はいないか
- 応じられないとき、どんな言葉で返すかを決めているか
すべてを一度に変える必要はありません。まずは明日、誰かに声をかけられて手が離せなかったとき、「ごめん、あと5分後でいいかな」と返してみてください。そして、5分後には自分から声をかける。断り方と、その後の一歩がそろったとき、相手の「だろう」が一つ、答え合わせされます。
大切なのは、「相談してほしい」という意思を伝えることだけではなく、その言葉が本当に機能するやり取りを、一つずつ増やしていくこと。その積み重ねが、「確かめ合える職場」をつくっていきます。
「いつでも相談して」と伝えているのに、声がかからない。そのとき問うべきなのは、「自分は話しかけにくい上司なのか」ということだけではないのかもしれません。
私たちの職場には、まだ確かめていない「だろう」が、いくつ残っているでしょうか。
関連記事
①社内コミュニケーション|風通しを良くしたのに、なぜ本音が出てこないのか ─「良好」と「健全」の分かれ目
②組織変革|何度呼びかけても、なぜ職場の空気は元に戻るのか ─人を包む「第二の肉体」
③ミドルマネジメント|丁寧に説明しても、なぜ現場は動かない? ─会議に足りない「出番」のつくり方
Podcast
Podcast「天上天下主客反転、ブルドーザーの企業解体新書!」では、組織のリアルな課題を毎週解体しています。
▼Spotify
一人ひとりが、「だろう」を確かめ合える組織へ
今日から始められるのは、推測を一つだけ質問に変えてみることです。チームであれば、定例の最後に「最近、声をかけるのをためらったことはある?」と一人ずつ聞くだけでも、それまで表に出なかった「だろう」が見えてきます。ただし、それを組織の当たり前にするには、個人の心がけの先にある層、つまり会議の置き方や働く場所の設計、立場を越えて話す場の仕組みまで見る必要があります。そこが、組織の見えないOSを再設計する「カルチャーエンジニアリング」の領域だと、私たちは考えています。
他のおすすめ記事をみる
Contact
資料のダウンロード・
お問い合わせはこちらへ
「アート思考、良さそうだけどピンときてない・・・」「うちの組織にどう適用したらいいかわからない」
そう思うのは自然なことです。どんなことでもお気軽にご相談ください。