先日、自分の誕生日の朝に、少し不思議なことがありました。前の日よりずっと睡眠時間が短かったのに、その日の目覚めのほうが、はるかに気持ちよかったのです。何が違ったのだろうと朝の対話のなかで言葉にしているうちに、自分の中にあった感覚が少しずつ見えてきました。
自分にとって誕生日は、いつのまにか「新しい一年が始まる日」ではなく、「この歳までに何ができたかを確認する期限」のようになっていたのかもしれません。無意識のうちに自分自身を評価して、できたことよりも、まだ足りないものに目を向けていた。そのことに気づいたとき、同じ誕生日でも、その日をどう捉えるかによって、自分の中から出てくる言葉が変わるのだと感じました。
「節目」を期限として捉えるか、スタートラインとして捉えるか。同じ日でも、その捉え方によって、見えるものは変わるのかもしれません。
ふと、これは誕生日だけの話ではないと思いました。会社にも、期初・期末、年始、評価面談など、さまざまな節目があります。もちろん個人の誕生日と会社の面談を、そのまま同じものとして扱うことはできません。ただ、「節目をどのような時間として開くか」という観点から考えてみると、組織のなかで交わされる会話にも、似た構造があるのではないか。ここからは、そんな問いを起点に考えてみたいと思います。
なぜ期初の面談は「足りないもの」の話になりやすいのか
期の変わり目に、上司と部下が向き合う時間を設けている会社は少なくありません。目標設定の面談、期初のキックオフ、半期の振り返り。名称や形式は違っても、これまでを振り返り、次の期間に向けて認識をそろえることが目的の一つになっているはずです。
ところが、面談を始めてみると、未達の項目、実行できなかった施策、伸びなかった指標など、「足りなかったもの」の確認に多くの時間を使ってしまうことがあります。振り返りの場である以上、達成できなかったことを確認するのは必要です。問題は、それだけで面談の時間を使い切ってしまうことです。
同じ30分でも、面談を終えたあとに「次はこれをやってみよう」と思える時間もあれば、自分に足りないものばかりが残る時間もあります。その違いは、話している内容だけではなく、その時間を「これまでを採点する場」として始めたのか、「ここから何を始めるかを考える場」として始めたのかにもあるのではないでしょうか。
「採点する節目」と「次をつくる節目」は、何が違うのか
ここでは、節目の捉え方を二つに分けて考えてみます。一つは「期限」として捉えること。もう一つは「スタートライン」として捉えることです。
期限として捉えれば、「ここまでに何ができたか」を確認する時間になります。目標に対する達成度を確認し、できなかったことがあれば、その理由を振り返る。一方、スタートラインとして捉えれば、これまで積み上げてきたものを出発点にして、「ここから何を始めるか」を考える時間になります。
これは、どちらか一方が正しく、もう一方が間違っているという話ではありません。組織で目標を持つ以上、達成度を確認することは必要です。ただ、節目を「期限」としてだけ扱うのか、「次のスタートライン」としても扱うのかによって、面談で投げかける問いや、時間の使い方は変えられます。
振り返ることをやめるのではなく、振り返った先に「次の始まり」を置く。節目をそのように設計できれば、面談は過去を確認するだけの時間ではなく、次の行動をつくる時間にもできるはずです。
では、実際の面談では、なぜ「次を始めること」よりも「足りなかったこと」の確認が先に来やすいのでしょうか。次に、面談の内容そのものではなく、会話が始まるときの「初期設定」に目を向けてみます。

「前向きに話そう」だけでは、面談は変わりにくい
目標や締切が設定されている面談では、達成度を確認することには明確な理由があります。目標に対してどこまで進んだのか、何ができなかったのか、どこに課題があったのか。こうした情報は確認しやすく、次の改善点を考えるうえでも必要です。
だからこそ、面談を前向きな時間にしたいと思っていても、気づけば「不足の確認」から会話を始めていることがあります。これは、上司が部下を減点しようとしているからとは限りません。面談の議題や資料が達成度の確認を中心につくられていれば、その順番に沿って会話が進むのは自然なことでもあります。
ここでBulldozerが着目したいのは、個人の意欲や性格ではなく、会話が始まるときの「初期設定」です。前向きな面談にしようと心がけるだけではなく、最初に何を確認し、どんな問いを置くのか。その順番から設計し直せないかと考えます。
面談の空気を変えたいとき、変えるべきなのは「もっと前向きに話そう」という心がけではなく、最初に何を話すかという設計なのかもしれません。
「何を問うか」が、その後の会話を変える
この考え方に関連して、コーチング領域では「問題に焦点を当てる問い」と「解決に焦点を当てる問い」の違いが研究されています。Grant(2012)が225人を対象に行った研究では、解決に焦点を当てた問いを用いたグループで、目標への接近やポジティブ感情、自己効力感などにより大きな変化が確認されました。また、2022年に研修医・博士課程学生183人を対象に行われた研究でも、解決に焦点を当てた問いを用いたセルフコーチングは、問題に焦点を当てた条件と比べ、実施直後のポジティブ感情や目標志向などで高い結果を示しました。
もちろん、これらは「期初の1on1で最初の5分を変えれば、同じ効果が生まれる」と証明した研究ではありません。実際の1on1は、実験環境よりも複雑です。ただ、同じ課題について考える場合でも、最初にどのような問いを置くかによって、その後に生まれる思考や行動が変わる可能性があるという点は、今回のテーマを考えるうえで参考になります。
この示唆を、そのまま1on1の効果として読み替えることはできません。一方で、「前向きに話そう」と意識するだけではなく、会話の入り口にどのような問いを置くかを設計する、という考え方にはつながります。そこで次に、面談全体を変えるのではなく、まず「最初の5分」の順番を入れ替える方法を考えてみます。
1on1を変えるなら、最初の5分を入れ替えてみる
では、実際の面談では何を変えればよいのでしょうか。大がかりな制度変更をする前に試せることとして、私たちは「面談の最初の5分」に着目しています。

よくある面談では、まず不足しているものを確認し、その原因を掘り下げ、最後に改善策を考える、という順番になることがあります。そこで、扱う情報そのものを大きく変えるのではなく、最初に置くものだけを入れ替えてみます。
「不足の確認」から始めるのではなく、まず「この期間に積み上げたもの」を確認する。次に「ここから新しく始めること」を決め、最後に「そのために必要な支援」を確認する。できなかったことを無視するのではなく、それを扱う前に、現在の出発点と次の行動を共有しておくという考え方です。
仕事における「進捗」に着目した研究もあります。Teresa AmabileとSteven Kramerは、知識労働者の日々の記録を分析した研究から、意味のある仕事において前進を実感することが、仕事中の感情やモチベーションなどと深く関係していることを報告しています。ここから直接「1on1では積み上げの確認から始めるべきだ」と結論づけることはできませんが、すでに進んだことを認識する意味を考えるうえでは、一つの手がかりになります。
「何が足りなかったか」をなくすのではなく、その前に「何を積んできたか」を置く。変えるのは、面談で扱う情報よりも、その順番です。
次の1on1ですぐ使える「3つの問い」
この考え方は、特別な面談制度を導入しなくても試せます。次の1on1や期初面談の前に、次の3つの問いを共有してみてください。
- この期間で、できるようになったことは何か
- 次の期間で、新しく始めるものを1つ挙げるとしたら何か
- それを始めるために、誰の助けが要るか
1つ目は、現在の出発点を確認するための問いです。本人が感じている成長と、上司から見えている変化が一致しているとは限りません。まず双方から「できるようになったこと」を出すことで、これまでの積み上げを共有したうえで、次の話に進めます。
2つ目は、視線をこれからに向けるための問いです。ここであえて「改善すべきこと」ではなく、「新しく始めること」と聞きます。できなかったことの修正だけではなく、次の期間にどんな行動を加えるのかを考えるためです。
3つ目は、その「始めること」を実際の行動につなげるための問いです。本人だけで完結する仕事ばかりではありません。必要な情報を持っている人、判断できる人、一緒に進める人など、「誰の助けが要るか」まで確認することで、上司側もどのような支援が必要なのかを考えられます。
この3つの問いは、期初や評価面談だけでなく、普段の1on1でも使えます。面談前に共有しておいても、最初の5分で一緒に考えても構いません。すべてを一度に変える必要はなく、まずは次の面談で、最初の問いを「何ができなかった?」から「この期間で、できるようになったことは何?」に変えるところから試せます。
1on1を変えるために、最初から制度全体を変える必要はありません。まず一つ、会話の始まりに置く問いを変えてみる。そこから、節目を「採点する時間」だけではなく、「次を始める時間」として開くことができます。
節目を「採点する日」から「次を始める日」へ
ここまで、期初や評価面談などの節目を「期限」だけではなく、「スタートライン」として捉える方法を考えてきました。会社には、期初・期末、年始、評価面談など、いくつもの節目があります。こうした場で、目標に対する達成度を確認し、これまでの結果を振り返ることは必要です。
ただ、節目の役割を「ここまでに何ができたかを確認すること」だけにしなくてもよいのではないでしょうか。これまでを振り返ったうえで、「では、ここから何を始めるのか」までを一緒に考える。そうすることで、節目は過去を確認するためだけではなく、次の行動を決めるための時間にもなります。
節目に本当にしたいのは、これまでを採点して終わることではなく、これまで積んできたものを出発点に、次に何を積むかを決めることなのだと思います。
一度、自社の1on1や期初面談を思い浮かべてみてください。最初に未達の項目から確認していないか。「次に新しく始めること」を決めて終わっているか。そのために必要な支援まで具体的になっているか。こうした観点から、今の面談の「開き方」を見直すことができます。
もし変えられそうなところがあれば、大きな制度変更から始める必要はありません。案内文に一つ問いを加える。最初の5分の順番を入れ替える。面談の最後に、誰の助けが必要なのかを確認する。まずは、次の1on1から試せる小さな変更で十分です。
次の1on1では、最初の問いを一つだけ変えてみる
この記事を読んだあと、まず試してほしいことがあります。次の1on1で、最初の問いを一つだけ変えてみてください。
「何ができなかった?」から始める代わりに、「この期間で、できるようになったことは何?」と聞いてみる。
もちろん、それだけですべての面談が変わるとは限りません。未達の理由を確認しなければならない場面もあれば、厳しいフィードバックが必要な場面もあります。大切なのは、それらをなくすことではなく、面談全体を不足の確認だけで終わらせないことです。
冒頭で、誕生日を「この歳までに何ができたかを確認する期限」のように捉えていた自分自身の話をしました。一方で、「ここから新しい一年が始まる」と捉えれば、同じ日でも、その先にあるものへ視線を向けることができます。会社の面談には評価や目標管理という役割があり、個人の誕生日と同じものではありません。それでも、節目を「ここまでを確認する日」として終わらせるのか、「ここから何を始めるかを決める日」としても扱うのかは、私たち自身が設計できます。
振り返りの先に、「次の始まり」を置く。そうすることで1on1は、できなかった理由を説明するためだけではなく、これまで積み上げてきたものを確認し、次の一歩を一緒に考える時間にもできます。
次の面談では、まず最初の5分だけ変えてみてください。
「この期間で、できるようになったことは何ですか?」
節目を「採点する日」だけで終わらせず、「ここから何を始めるか」を考えるスタートラインにする。その小さな変化は、最初の問いを一つ変えるところから始められます。
関連記事
「面談の設計」だけでなく、人の意欲に頼らず組織が動く状態をどのようにつくるかについては、以下の記事でも考えています。
① なぜ頑張らせても組織は動かないのか──“入力思考”を捨て、“配置”を設計する
② 組織課題|優先順位を決めても組織が動かないのはなぜか ─組織には「順位表」が2枚ある
③ 若手育成|優秀な若手が辞めない組織は、何が違う? ─「自己効力感」から考える
マガジン・タグ「#カルチャーエンジニアリング」からも、関連する記事をまとめてお読みいただけます。
Podcast「天上天下主客反転、ブルドーザーの企業解体新書!」では、組織で起きるさまざまな課題を取り上げ、その背景にある構造について考えています。
▼Spotify
組織の見えないOS=文化を再設計する「カルチャーエンジニアリング」の実践支援については、株式会社BulldozerのWebサイトでもご紹介しています。
▼株式会社Bulldozer
あなたの会社の次の節目は、これまでを採点するためだけの日でしょうか。それとも、これから何を積むかを決める日でもあるでしょうか。
参考文献・出典
本記事では、「解決に焦点を当てた問い」と「仕事における進捗」に関する以下の研究・文献を、考察の参考にしています。なお、これらの研究が、本記事で提案する「1on1の最初の5分を入れ替える」という方法そのものの効果を実証しているわけではありません。本記事では、既存研究から得られる示唆と、Bulldozerとしての見立てを区別して記述しています。
Grant, A. M. (2012). Making positive change: A randomized study comparing solution-focused vs. problem-focused coaching questions. Journal of Systemic Therapies, 31(2), 21–35. https://doi.org/10.1521/jsyt.2012.31.2.21
Neipp, M.-C., Beyebach, M., Nuñez, R. M., & Martínez-González, M.-C. (2016). The effect of solution-focused versus problem-focused questions: A replication. Journal of Marital and Family Therapy, 42(3), 525–535. https://doi.org/10.1111/jmft.12140
Solms, L., van Vianen, A. E. M., Theeboom, T., Koen, J., de Pagter, A. P. J., & de Hoog, M. (2022). Simply effective? The differential effects of solution-focused and problem-focused coaching questions in a self-coaching writing exercise. Frontiers in Psychology, 13, 895439. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2022.895439
Amabile, T. M., & Kramer, S. J. (2011). The progress principle: Using small wins to ignite joy, engagement, and creativity at work. Harvard Business Review Press.
https://www.hbs.edu/faculty/Pages/item.aspx?num=40692
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