組織課題の相談で、私たちがよく耳にするのが「計画は正しいのに、実行が進まない」という悩みです。締切と重要度をもとに優先順位を決め、会議で共有し、担当者と期限も明確にしている。それにもかかわらず、翌週の定例会議では、先週と同じ議題が同じ場所に残っています。
このような状況では、優先順位の付け方や計画の粒度に原因があると考えがちです。しかし、順位表を何度見直しても状況が変わらないのであれば、その外側にある要因にも目を向ける必要があります。
優先順位を丁寧に並べ替えるほど、実行の時間は減っていく
実行が止まっている組織でも、優先順位の議論そのものは丁寧に行われていることがあります。緊急度と重要度で施策を整理し、取り組むべき項目を上位3つに絞り、担当者と期限を決める。会議の進め方だけを見れば、決して問題があるようには見えません。
しかし、優先順位を見直す会議を繰り返すほど、そのために使った時間だけ実行に充てられる時間は減っていきます。そして次の会議では、進まなかった理由の確認から始まり、再び順位表を並べ替えることになります。順位表の精度を上げる作業が、結果として実行を遅らせてしまうのです。
優先順位を明確にすることは、組織運営に欠かせません。ただし、順位表を精緻にしても動かないのであれば、問題は順位の付け方だけではない可能性があります。
動いていないのは計画ではなく、もう1枚の順位表
先日、私自身にもこの状況が、わかりやすい形で起きました。その日の予定上の最優先事項は、契約書の確認と分析資料の仕上げでした。どちらも締切が迫っており、重要度も高く、優先順位に迷う余地はありませんでした。
それでも、午前中はほとんど仕事が進みませんでした。資料を開いては閉じ、別のメールを確認して、また資料に戻る。実際に私の頭を占めていたのは、大切な人の体調と、まだ交わしていなかった一つの会話でした。
午後になって、その会話を先に終わらせました。すると、午前中には進まなかった実務に、ようやく集中できるようになりました。少なくとも私の感覚では、大きく変わったのは仕事の量や能力ではなく、着手する順番でした。
この経験から、私たちは一つだと思っている優先順位表を、二つに分けて考える必要があるのではないかと思うようになりました。一つは、締切や重要度から決める「公式の優先順位」。もう一つは、その人の注意を実際に占めている「心の優先順位」です。
組織を止めているのは、能力や意欲だけではありません。扱われていないもう1枚の順位表が、実行を止めていることがあります。
組織には、個人以上にはっきりとした「心の優先順位」が存在する場合があります。途中で止まった変革プロジェクト、決着しないまま流れた人事、結論が曖昧なまま終わった会議。公式の議題から外れていても、参加者の記憶や注意から消えているとは限りません。

未処理の1件が、次の会議の集中を奪っている
未処理の出来事が、その後の仕事に影響する可能性を考えるうえで参考になるのが、「注意残余」という概念です。ソフィー・ルロワが2009年に発表した研究では、あるタスクを終えないまま別のタスクへ移ると、注意の一部が前のタスクに残り、次のタスクへの集中やパフォーマンスに影響することが示されています。
この研究が直接扱っているのは、個人が複数のタスクを切り替える場面です。組織の未処理案件や会議について、その効果を直接検証した研究ではありません。
一方、私たちは組織の現場でも、これと似た構造が生じることがあると考えています。決着していない案件や、言葉にされていない懸念に参加者の注意が残り、新しい議題へ十分に集中できなくなる構造です。
ある企業の初回ワークショップでは、問いを投げかけたあと、参加者が発言する前に責任者の反応を確かめるような沈黙が生まれました。誰も明確には口にしませんでしたが、その場で扱われていた公式のテーマとは別に、参加者の注意を占めているものがあることがうかがえました。
未処理の案件が残り、参加者の注意の一部がそこに向いたままになると、新しい施策の初速が出にくくなります。その結果、「現場のやる気がない」「当事者意識が足りない」と評価され、管理や報告が強化される。管理が強まるほど、本当の気がかりを口にしづらくなり、2枚目の順位表が見えにくくなることがあります。
止まった変革が次の変革に与える影響については、こちらの記事でも詳しく扱っています。
▼DX|変革プロジェクトは、なぜ途中で止まるのか ─足りないのは計画ではなく「足並み」
https://bulldozer.co.jp/blog/dx-transformation-project/
「現場のやる気の問題」に見えるものが、実際には注意の配分や、議題の設計に関わる問題である可能性があります。個人の資質を疑う前に、注意を奪っている未処理の案件がないかを確認することが重要です。
参考文献
Leroy, S.(2009)“Why is it so hard to do my work? The challenge of attention residue when switching between work tasks.” Organizational Behavior and Human Decision Processes, 109(2), 168–181.
https://doi.org/10.1016/j.obhdp.2009.04.002
「いま、いちばん気がかりなこと」を最初の5分で確認する
では、2枚目の順位表をどのように扱えばよいのでしょうか。私たちが現場で試している方法は、大きく三つあります。
・会議の冒頭5分を、進捗確認ではなく気がかりの確認に使う
・心の優先順位に15分の時間を与え、予定表に置く
・途中で止まっている案件を一つ選び、明示的に閉じる
一つ目は、会議の順番を変える方法です。定例会議の冒頭を「進捗はどうですか」ではなく、「いま、仕事を進めるうえで気がかりなことはありますか」という問いから始めます。全部をその場で解決する必要はありません。まず言葉にすることで、参加者の注意が何に向いているのかを、チームで扱える状態にします。
ここでいう「気がかり」とは、個人的な事情を無理に開示することではありません。「別件への対応が必要になっている」「判断待ちの案件がある」「前回の結論に納得できていない」など、仕事への集中に影響している事実を、本人が話せる範囲で共有することを指します。
二つ目は、意志の力だけに頼らず、予定表に仕事をさせる方法です。「あとで考える」と決めただけでは、気がかりが頭から離れないことがあります。そこで、15分の時間を先に確保し、その時間に扱うと決めます。問題を15分で解決することが目的ではなく、頭の中だけにある課題を、予定表の上に移すことが目的です。
三つ目は、新しい施策を増やす前に、途中で止まっている案件を一つ閉じることです。再開するのか、中止するのか、別の施策へ統合するのかを決め、「あの案件はこうなりました」と明示します。過去の案件を曖昧な状態から出すことで、新しい施策について話し合うための余地が生まれることがあります。
5分や15分という時間は、研究から導いた厳密な基準ではありません。現場で無理なく試すために、私たちが運用上の目安として置いている時間です。重要なのは分数そのものではなく、公式の進捗を確認する前に、実際に注意を占めているものを扱う順番です。
公式の優先順位を機能させるために、もう1枚の順位表を先に扱う。それが、実行を生むための順番の設計です。

あなたのチームは、どちらの順位表で動いているか
以下は、チームの状態を振り返るための問いです。診断基準ではありませんが、複数の項目に心当たりがある場合は、会議に出ていない気がかりや、明示的に閉じられていない案件がないかを確認してみてください。
・決めた優先順位が、翌週の会議でも同じ状態で残っている
・「やる気がない」「当事者意識がない」という言葉が会議で増えている
・過去数年の間に、明示的に終わらせないまま止まった施策がある
・会議で本題に入る前の対話が、ほとんどなくなっている
・1on1で扱われる話題が、業務の進捗確認だけになっている
特に、会議前の対話や1on1の話題が減っている場合は注意が必要です。気がかりを出せる場所がなくなっても、気がかりそのものが消えるわけではありません。表に出なくなったものは、参加者それぞれの中に残り続けます。
文化とは、「何を議題にしてよいか」の共通認識
私たちは、組織文化の重要な一面を、その組織で「何を議題にしてよいことになっているか」という共通認識として捉えています。公式の議題とは別に気がかりがあることを口にしてよい組織では、2枚目の順位表をチームで扱えます。口にしてはいけない組織では、それが会議室の空気として持ち込まれ続けます。
この共通認識は、「もっと率直に話そう」と呼びかけるだけでは変わりません。会議冒頭の問い、予定表の使い方、途中で止まった案件の閉じ方といった、具体的な行動の設計によって少しずつ変わっていきます。
私たちがカルチャーエンジニアリングと呼んでいるのは、いわば組織の「見えないOS」にあたる文化を、行動や仕組みの設計から扱う仕事です。掲げる言葉を変えるだけではなく、何が議題に上がり、どのように意思決定され、何が明示的に終わるのかを設計します。
引き継ぎ資料が残っても、その背景にある意味まで残るとは限りません。同じように、優先順位表が残っていても、実行に必要な注意や納得までそろっているとは限りません。この考え方の背景は、以下の記事でも紹介しています。
▼組織文化継承|なぜ引き継ぎ資料は残っても意味は失われるのか ─文化を継ぐのは、これからも人の役割
https://bulldozer.co.jp/blog/shoshiki-bunka-keisho/
次の定例会議では、冒頭の5分だけ順番を変えてみてください。進捗を確認する前に、「いま、仕事を進めるうえで気がかりなことはありますか」と問いかける。それだけでも、これまで公式の議題に上がっていなかった、もう1枚の順位表が見えてくるかもしれません。
あなたの会社では、いま、心の優先順位を口にしてよいことになっていますか。
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▼なぜ頑張らせても組織は動かないのか ─”入力思考”を捨て、”配置”を設計する
https://bulldozer.co.jp/blog/input-thinking-to-placement-thinking/
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