社内コミュニケーション改善で見落とされる「議題のない時間」
社内コミュニケーションを良くしたい。そう考えて施策を増やしている会社は少なくありません。シャッフルランチ、部門横断の合宿、社内報のリニューアル、全社懇親会。予算も工数もかけて場は着実に増えています。それでも「以前より社内の人と話すようになりましたか」と聞くと、期待したほど変わっていないという声を耳にします。この落差は、どこから生まれるのでしょうか。
先月末、私が運営に関わっているオンラインコミュニティで、青森・弘前に約30名が集まる二日間のイベントを開催しました。運営としてプログラムはかなり丁寧に組んだつもりでしたが、終わって振り返ると、私自身が「この人とは距離が縮まった」と感じた相手は、同じ班だった人ではありませんでした。
振り返ってみると、共通点がありました。移動の道中や集合前の待ち時間、 夕食後に街を歩いた時間など、こちらが何も設計していない時間でした。 運営としては、少し都合の悪い発見です。
私は、このような時間を「議題のない時間」と呼んでいます。移動中や待ち時間、会議前後の雑談のように、誰も進行せず、何を話しても、話さなくてもいい時間のことです。この記事では、なぜこの時間が社内コミュニケーションの改善につながるのか、実体験と研究をもとに考えてみます。
社内コミュニケーションの施策は増えたのに、話す相手は増えていない
同じことが、多くの会社でも起きているのではないでしょうか。全社懇親会を開けば、その日は確かに盛り上がります。しかし翌週、実際に相談する相手が増えたかというと、それほど変わっていない。場は増えたのに、関係は増えていない。 そんな状態を見かけることがあります。
見落とされやすいのは、ここに少なくないコストがかかっていることです。会場費や飲食費だけでなく、企画や調整の工数、参加者が使う時間も含めれば、会社は決して小さくない投資をしています。それでも成果を測る指標は「開催回数」や「参加率」に偏りがちです。支出は施策の数で数えられるのに、成果は関係の数で数えられていない。 この非対称さが、効いている施策とそうでない施策を見えにくくしています。
議題のある時間ほど、参加者は「応える側」に固定される
なぜ、しっかり設計した時間ほど関係が深まりにくいのでしょうか。理由は、その時間に議題があることそのものにあります。
議題があると、目的も役割も進行も決まります。誰かが問いを投げかけ、参加者はそれに応える。結論を出したり、情報を共有したりするには、とても重要な時間です。ただ、そのやり取りの向きを見ると、参加者は互いを見ているというよりも、議題を見ています。会話は成立していても、人と人の関係が動いているとは限りません。
一方で、移動中や待ち時間には議題がありません。誰かが進行するわけでもなく、話題も決まっていない。だからこそ、その場の空気に合わせて話し、相手の反応を見ながら自然に会話が続いていきます。関係が育つのは、こうした「議題のない時間」であることが少なくありません。

もちろん、議題のある時間が不要だという話ではありません。会議やワークショップは、意思決定や合意形成に欠かせないものです。ただ、「物事を決める時間」と「人との関係を育てる時間」は、役割が異なります。 プログラムを充実させることと、人との距離が縮まることは、別の変数として考えたほうがよさそうです。
関係が深まったのは、プログラムの中ではなく、その前後だった
弘前で私と関係が深まったのは、自由時間にたまたま行動をともにした数名でした。特別な話をしたわけではありません。歩く速さや、立ち止まる場所。何を面白がるのか、会話の間の取り方。そういうものが、話の内容とは別に少しずつ伝わってきます。
面白いのは、その後です。イベントが終わってオンラインに戻ると、その人たちの投稿が、文字だけではなく声で再生されるようになっていました。同じ文章なのに、その人らしさが伝わる。だから返信もしやすくなり、やり取りが自然と続いていきます。
一度きりの交流が、続いていく関係へ変わる。そのきっかけになっていたのは、プログラムの時間ではありませんでした。何を話すかも決まっていない、ただ一緒に過ごした時間だったのです。

この話は、私の体験だけではありません。MITメディアラボでは、コールセンター約80名を対象に、休憩時間の取り方だけを変える実験が行われています。変えたのは業務内容でも、評価制度でもありません。チーム全員が同じ時間に休憩を取るようにしただけです。その結果、成績が振るわなかったチームでは、平均通話処理時間が20%以上改善しました。
会社が変えたのは、仕事のやり方ではありません。「誰と休憩するか」だけです。
私が弘前で感じたことも、これとよく似ています。関係が動いたのは、運営が何かを用意した時間ではありませんでした。運営が設計した時間ではなく、設計していなかった時間だったのです。
このテーマについては、Podcast「天上天下主客反転、ブルドーザーの企業解体新書!」でも、実際の事例を交えながらお話ししています。制度や仕組みだけでは説明できない組織の変化に興味がある方は、あわせてご覧ください。
自由時間をつくっても、班分けをした瞬間に効かなくなる
ここで、多くの現場がやってしまうことがあります。
せっかく自由時間を設けたのに、その時間にもテーマを決めたり、班分けをしたりしてしまうことです。
気持ちはよく分かります。何もしなければ話さない人がいるかもしれない。時間を持て余す人が出るかもしれない。そう考えると、運営としては何かを用意したくなります。
ただ、その瞬間に自由時間は「議題のある時間」へ戻ります。参加者は再び進行役に応え、与えられたテーマについて話し始めます。もちろん、それが悪いわけではありません。ただ、人と人の距離が自然に縮まる時間とは少し性質が違います。
分刻みで埋め尽くしたイベントでも、同じことが起こります。余白がなければ、議題のない時間そのものが生まれません。
運営が何もしない時間は、手抜きではなく設計です。
組織づくりでは、「何を増やすか」に目が向きがちです。しかし実際には、「何を設計しないか」が、人と人との関係を左右することがあります。
「議題のない時間」を、予定表のどこに置くか
では実務では、どこに置けばいいのでしょうか。挙げると、次の3つです。
・会議の前後に5分の余白を残す
・移動や待ち時間を、連絡や作業で埋めない
・「ここは運営が仕切りません」と明示する
1つめは、いちばん手をつけやすい方法です。会議を55分で設計して前後に5分ずつ余らせると、そこに生まれる雑談が議題のない時間になります。分単位で連続させた予定表からは、この5分が構造的に消えます。
2つめは、移動や待ち時間の扱いです。同行者がいる移動でメールを片づければ業務は進みますが、関係は進みません。そこは処理する時間ではなく、相手のリズムが入ってくる時間だと考えたほうが、得るものは大きくなります。
3つめは、宣言です。自由時間を取っただけでは、参加者は「何をすればいいのか」と身構えます。「この時間は運営が仕切りません」と言葉にして、初めて楽譜が外れます。
3つに共通しているのは、何も足していない点です。施策を増やすのではなく、すでにある時間の使い方を変えているだけ。組織を動かすときに効くのは足し算ではないという話は、以前こちらでも書きました。
▼なぜ頑張らせても組織は動かないのか──”入力思考”を捨て、”配置”を設計する
予定表を見返したとき、「効率化すべき空白」に見えていた時間が、「関係を育てる時間」に変わる。それだけでも、社内コミュニケーションの質は少しずつ変わり始めます。
社内コミュニケーション改善で見落とされる「議題のない時間」
最後に、チームで一度確認してみてください。
- 直近の社内イベントで、議題のない時間は何分ありましたか。
- その時間にも、テーマや班分けを用意していませんでしたか。
- 成果を、開催回数や参加率だけで測っていませんか。
- イベントのあと、実際に相談する相手は増えましたか。
ひとつでも気になる項目があれば、次に必要なのは新しい施策ではないかもしれません。まずは、予定表の中から失われてしまった余白を取り戻せないかを考えてみてください。
私たちが組織づくりをご支援するときも、制度やイベントを増やすことから考えることはほとんどありません。最初に見るのは、人と人が自然につながる構造があるかどうかです。
私たちは、人と人の関係が自然に育つ構造を設計することを、「カルチャーエンジニアリング」と呼んでいます。
予定表の余白も、その構造を形づくる要素の一つです。制度を変える前に、人が自然と関係を育てられる時間が残っているかを見直す。その小さな変化が、組織の空気を変える最初の一歩になることがあります。
社内コミュニケーションは、場の数だけでは測れません。
本当に見るべきなのは、「議題がないときに、人は誰と時間を過ごしているか」です。
あなたの会社の予定表には、誰も仕切っていない時間が残っていますか。
【関連記事】
組織づくりやカルチャーエンジニアリングについては、こちらの記事でも詳しく書いています。
▼離職防止|優秀な若手ほど、なぜ辞めるのか ─ 足りないのは制度ではなく「プロジェクト」
▼価値を生み出し続ける組織は、どうすればつくれるのか ─ Culture Engineeringという新しい組織づくりにたどり着くまで
どちらも、「制度を変える」ことよりも、「人が自然に動ける構造をどう設計するか」という視点から組織を考えています。今回の記事とあわせて読むことで、カルチャーエンジニアリングの考え方をより立体的に理解していただけると思います。
【Podcast】
Podcast「天上天下主客反転、ブルドーザーの企業解体新書!」では、制度や仕組みだけでは説明できない組織の変化について、実際の企業事例を交えながら毎週お話ししています。
今回の記事で取り上げた「議題のない時間」のように、一見すると些細に見える構造が、組織にどのような影響を与えるのか。記事では書ききれなかった背景も含めてお話ししていますので、興味のある方はぜひお聴きください。
【カルチャーエンジニアリングとは】
Bulldozerでは、制度や施策を増やすことを目的にはしていません。
組織の中で、人と人がどのようにつながり、どのような関係が生まれ、その関係が成果につながっていくのか。その構造そのものを見直すところからご支援しています。
組織文化は、理念だけでも、制度だけでも変わりません。日々のコミュニケーションや意思決定、仕事の進め方まで含めて、一つの構造として設計する必要があります。
私たちは、人と人の関係が自然に育つ構造を設計することを、「カルチャーエンジニアリング」と呼んでいます。
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