先週末、昔シェアハウスで隣に住んでいた友人の結婚式に出席しました。派手な演出で固めるのではなく、「自分たちの好きな人をたくさん呼んで、その人たち同士にも交流してほしい」という心配りが会場に満ちた、すごく等身大の結婚式でした。
久しぶりに会った人たちが自然と話し始めて、笑い合い、それぞれの場所で新しいつながりが生まれていました。その様子を見ながら、着飾った自分ではなく、素の自分のまま、こんなふうにたくさんの人から祝福されるのは素敵だなと思いました。式が終わってからも、あの場所に流れていた温かさがずっと頭に残っています。
同じ週には、我が家でもあるシェアハウスに、3歳の女の子が一年ぶりに帰ってきました。会わないうちに驚くほどおしゃべりになっていて、つけていた指輪を嬉しそうに見せてくれました。
「プリンセスじゃん!」と言うと、少し間を置いて、「しょっかぁ……」とつぶやきます。おそらく、「そっかぁ、自分は実はプリンセスなんだぁ」という意味の「しょっかぁ……」だったのだと思います。自分がプリンセスであることをゆっくり噛みしめているようで、とてもかわいかったです。
日々いろいろなことが起きます。その場にいなくても、仕事やプライベートの話を聞き、誰かの人生を追体験させてもらう機会もたくさんあります。そうした会話を重ねるなかで、最近ようやく、年代ごとに大切なことの解像度が少しずつ上がってきました。
そのなかで、今の私が30代について最も腹落ちしていることがあります。
30代で本当に効いてくるのは、「盛る力」ではなく、「盛らない力」と対話力です。
20代は「盛って」いい。30代で同じことをすると、逆回転が始まる
誤解を恐れずに言うと、20代は多少話を盛ってもいい時期だと思っています。
理想の自分をできるだけ大きく描き、その理想に実態を追いつかせるために、がむしゃらに動く。先に言ってしまったことと、今の自分との間にある差を、努力してあとから埋めていく。この背伸びが、実務能力の原資になります。
20代は、発言と実態の帳尻をあとから合わせにいくことを、社会がある程度は許してくれる時期でもあります。タイパやコスパばかりを考えて、割に合う機会だけを選んでいると、この原資はなかなかたまりません。お金も時間も気持ちも含めて、できるだけ多くを自己投資に回していい時期なのだと思います。
ただ、多くの人が30代になっても、そのやり方を続けてしまいます。20代の頃に、理想を大きく掲げ、勢いで前に進んだ経験がうまくいっているほど、その成功体験を手放しにくいからです。
ここで起きるのが、「盛り」の逆回転です。
20代では、自分を大きく見せることが挑戦のきっかけになり、実態を引き上げる力として働きます。一方、ある程度の経験や実績を求められる30代で同じことをすると、言葉に実態が追いついていないことを、周囲も少しずつ見抜くようになります。
期待されたことができない。発言と行動が一致しない。言っていることは大きいのに、実際には周りが帳尻を合わせている。そうした小さなずれが重なるたびに、能力ではなく、信頼のほうが削られていきます。
つまり、20代では前に進む力になっていた「盛り」が、30代では周囲との間に見えない負債をつくり始める。これが、私が考える逆回転です。
私自身も30代になり、以前だったら少し大きく言っていたかもしれない場面で、「それはまだできません」「そこは経験がありません」と伝えることが増えました。できるように見せて仕事を取るより、今の自分ができる範囲と、これから挑戦する範囲をそのまま話す。そのほうが、相手とも長く、率直に付き合えると感じるようになったからです。
30代では、自分を大きく見せることよりも、言っていることと実態が合っていることのほうが、はるかに強い資産になります。

30代の資産は「等身大」。誠実さの積み重ねが信頼になる
30代でやるべきなのは、20代でためた経験値を原資に、等身大で信頼関係を築いていくことです。
等身大とは、自分を小さく見せることでも、謙遜することでもありません。できることはできると言い、できないことはできないと言う。実績を実際より大きく見せず、発言と行動を一致させることです。
地味に聞こえるかもしれませんが、これを継続できる人は意外と多くありません。そして、仕事も人間関係も長く続く30代以降では、その地味な積み重ねが大きな差になります。
スティーブン・R・コヴィーは『7つの習慣』のなかで、人間関係における信頼を「感情の銀行口座」にたとえています。約束を守ることや、正直でいること、小さな誠実を重ねることは信頼の「預金」になり、反対に、話を盛ることや言行が一致しないことは「引き出し」になるという考え方です。
先週の記事では、この「信頼残高」という考え方について、「無料の罠」をテーマにもう少し詳しく書きました。今回は理論を深掘りするというより、30代は、派手な一度のアピールではなく、小さな誠実を積み重ねる時期になる、という点を押さえておきたいと思います。
対話は、信頼に複利をかける。でも、誰も教えてくれない
そして、30代で決定的に重要になるのに、学校ではほとんど教わらなかった技術があります。対話です。
対話というと、「うまく話すこと」だと思われがちです。でも、私の実感はむしろ逆です。相手の仕事もプライベートも含めた人生を、その場にいなくても追体験させてもらう。対話とは、そういう聞き方のことだと思っています。
日々の会話のなかで、相手がどんな出来事を経験し、そのときに何を感じ、なぜ今の考えに至ったのかを聞いていく。すると、肩書や表面的な発言だけでは見えなかった、その人なりの背景が少しずつ見えてきます。
対話が深まるほど、相手の解像度が上がります。相手の解像度が上がれば、「この人には、今どんな言葉が必要なのか」「どこまで言っても大丈夫なのか」もわかるようになり、こちらの言葉も届きやすくなります。
面白いのは、これだけ大切なことが、どの教科書にもほとんど載っていないことです。国語でも、道徳でも、仕事の研修でも、自分の意見を話す方法は教わります。でも、相手の人生を追体験するように聞く方法は、なかなか教えてもらえません。
私自身、対話の大切さを強く感じるようになったのは、大人になって、多様な年代や立場の人と本音で話す機会が増えてからでした。自分がその場にいなかった出来事でも、相手の言葉を通して追体験することで、初めて見えてくるものがあります。人との会話によって、自分だけでは持てなかった視点が増え、各年代への解像度も少しずつ上がってきました。
だからこそ、学校で教わらなかったから仕方がない、と済ませるのではなく、30代では意識して対話を取りにいく必要があります。話す力だけではなく、聞く力を磨く。本音を話せる関係を、一人ずつ増やしていく。それが、自分の世界を広げるだけでなく、周囲との信頼関係にもつながっていきます。
等身大でいることで信頼の土台ができ、対話を重ねることで、その関係が静かに、でも確実に強くなっていきます。

明日からできる、「等身大」と「対話」の実践
ここまでの話を実務に落とすと、私が普段から意識していることは、次の四つです。
- 盛りの棚卸しをする。 発言と実態の帳尻がまだ合っていない領域を、正直に見ます。そこは恥ずかしい部分ではなく、これから等身大に戻していくための伸びしろです。
- 全体最適で考える。 自分の手柄や自分の担当範囲だけではなく、その場全体の成果を見るようにします。まだ年長者ではなくても、「年長者として何ができるか」を先取りして考えます。
- よく観察する。 尊敬できる人だけでなく、反面教師にしたい人も同じようによく見ます。年齢を重ねたときに、どうありたいのか、どうはなりたくないのかを考える材料になります。
- 本音の関係を増やす。 等身大で付き合え、本音を言い合える人を一人ずつ増やします。人数の多さよりも、関係の質を大切にします。
どれも、すぐに大きな成果が出るものではありません。ただ、日々の判断や振る舞いのなかで積み重ねていけば、数年後には人との関係のつくり方が大きく変わっているはずです。
【セルフチェック:30代の等身大度】
- 直近1か月で、実力よりも自分を「大きく見せた」場面はなかったでしょうか。
- 「それはできません」「そこはわかりません」と、正直に言えた相手は何人いたでしょうか。
- 最近、相手の人生を追体験するような聞き方ができていたでしょうか。
- 今週の自分は、周囲からの信頼を積み重ねる行動ができていたでしょうか。
個人の等身大は、そのまま組織の話になります
ここまで個人の話をしてきましたが、この構造は驚くほど、そのまま組織にも当てはまります。
実力以上に自社を盛る会社や、本音の対話がなくなり、忖度だけが回る会社では、個人と同じように逆回転が始まります。言っていることと実態のずれが大きくなり、その帳尻を誰かが見えないところで合わせ続ける。結果として、社内にも社外にも信頼の負債がたまっていきます。
一方で、できることとできないことをそのまま共有し、問題について本音で対話できる組織は、課題があっても修正できます。課題がないことではなく、課題を課題として扱えることが、組織の強さにつながります。
組織のなかに流れている、この目には見えない「等身大さ」や「対話の質」を、私はカルチャー、つまり組織の見えないOSだと考えています。そして、そのOSを意図的に捉え直し、設計していく営みを「カルチャーエンジニアリング」と呼んでいます。
20代で身につけた実務能力を、30代では、等身大の信頼関係に変えていく。さらに対話によって、その関係を育てていく。これが、30代の一つの勝ち筋なのだと思います。
組織のOSとしての対話や意思決定については、「なぜ、誰も決めない組織になるのか」で詳しく書いています。個人の話から組織の話へ、もう一歩進めて考えたい方は、こちらも読んでみてください。
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