「何でも相談してね」
そう伝えているのに、部下から相談が来ない。来るのは体調不良の連絡や有給の申請くらいで、本当に困っていたことは、問題が大きくなってから初めて知る。そんな経験はないでしょうか。
私自身、長い間「自分はかなりオープンな人間だ」と思っていました。考えていることも、事業の状況も、過去の失敗も、聞かれればだいたい話します。周囲からも「オープンですね」と言われてきました。
ところが最近、自分が何をどこまで話しているのかを改めて整理してみて、一つ気づいたことがあります。
私は「過去の失敗」は話していても、「今まさに困っていること」は、ほとんど話していませんでした。
そして、部下には相談してほしいと思いながら、自分から「一緒に考えてほしい」と頼むことも、ほとんどありませんでした。もしかすると、「相談して」と言っても相談が来ない理由は、ここにあるのかもしれません。
この記事では、自分自身の経験から考えるようになった「開示の4つの扉」をもとに、部下から相談が上がってこない理由と、明日の1on1から変えられることを考えていきます。
1. 「何でも相談して」と言っているのに、なぜ部下は相談してくれないのか
部下育成について話していると、「部下からもっと相談してほしい」という悩みをよく耳にします。上司としては、「困ったらいつでも言って」「何でも相談して」と伝えている。それでも、本当に困っていることほどなかなか上がってきません。
そこで「1on1の回数が足りないのではないか」「もっと話しやすい雰囲気をつくった方がいいのではないか」と考える人もいるでしょう。もちろん、対話する機会をつくることは大切です。ただ、その前に考えてみたいことがあります。
部下に「何でも相談して」と言っている上司自身は、どこまで自分のことを話しているでしょうか。
開いているかどうかは、自分の感覚だけでは決まりません。部下が見ているのは、「自分はオープンな人間だ」という上司の自己認識ではなく、上司が実際に何を話し、何を話していないかです。
事業のことや自分の考えを話し、過去の失敗も包み隠さず話す。それだけでも十分に「オープンな上司」に見えます。しかし、それと「今まさに困っていることを話す」ことは、少し違います。
上司が完成した話だけをしていると、部下も「ここでは、ある程度整理してから話した方がいい」と感じる可能性があります。すると、まだ答えの出ていない悩みや、本人にも整理できていない違和感は、会話に出てきにくくなります。
相談が来ないからといって、必ずしも「信頼されていない」とは限りません。上司と部下の間で、「ここではどこまで話していいのか」という認識にズレがある可能性もあります。
2. 相談しやすい上司でも、「今の悩み」は話していない
このことに気づいたきっかけは、自分自身のコミュニケーションを振り返ったことでした。
私はこれまで、自分の失敗をかなり話してきました。「昔、こんな判断をして失敗した」「あのときは全然できなかった」。そうした話を隠しているつもりはありませんし、むしろ積極的に話していたと思います。
ただ、よく考えてみると、それらはすべて「すでに終わった話」でした。
過去の失敗には、すでに結末があります。「あの失敗から、こう学んだ」「当時は大変だったけれど、今ではこう考えている」と、ある程度整理した状態で話せます。場合によっては、笑い話にもできます。
一方で、「今、この判断に迷っている」「この問題をどうしたらいいのか、まだ分からない」といった現在進行形の悩みは、ほとんど外に出していませんでした。さらに、「自分だけでは分からないから、一緒に考えてほしい」と誰かに頼むことは、もっと少なかったと思います。
過去の弱さを話すことと、現在の弱さを見せることは、似ているようで違います。
前者はすでに整理された「物語」ですが、後者にはまだ答えがありません。ここに、相談が生まれるかどうかを考えるヒントがあるのではないかと思いました。
3. 部下から相談される上司が開いている「4つの扉」
自分自身や周囲のコミュニケーションを振り返ってみると、「自分を開く」という行為には、いくつか異なる深さがあるように思います。そこでBulldozerでは、これを理解しやすくするために「4つの扉」として整理しています。
これは学術的に確立された4段階モデルではなく、私自身の経験や組織でのコミュニケーションをもとに整理した、実践のためのフレームワークです。
4つの扉は、次のように分けられます。
- 情報の扉:近況や自分の考えを話す
- 物語の扉:過去の失敗や弱さを話す
- 現在形の扉:今まさに困っていることを話す
- 要請の扉:「一緒に考えてほしい」と助けを求める
「情報の扉」は、事業の状況や自分の考え、最近の出来事などを話すこと。「物語の扉」は、自分の失敗や弱さを、ある程度意味づけされた過去の出来事として話すことです。
そこから一歩進んだ「現在形の扉」では、まだ整理できていない現在進行形の困りごとを見せます。そして「要請の扉」では、困っていることを見せるだけでなく、「あなたの意見を聞かせてほしい」「一緒に考えてほしい」と相手に助けを求めます。
この4つを見分けるポイントは、「いつの話なのか」「どこまで整理されているのか」「相手に助けを求めているのか」の3つです。

情報の扉や物語の扉まで開いている人は、十分にオープンな人に見えます。自分の考えを隠さず、失敗談も話してくれる。本人自身も「自分はかなり開いている」と感じているでしょう。
だからこそ、「現在形の扉」と「要請の扉」が閉じていることには、自分でも気づきにくい。 私自身もそうでした。
まだ言語化できていない悩みや、結論の出ていない問題を「もう少し自分で考えてから話そう」と抱え込んでいるうちに、問題が大きくなることもあります。
完成した物語のまわりには観客が集まります。工事中の現場にだけ、仲間が集まる。
もしかすると、相談が来ない原因は、上司が「閉じている」ことではなく、「完成品しか見せていない」ことにあるのかもしれません。
4. 1on1を増やすだけでは、本音の相談が増えない理由
部下から相談が上がってこないとき、「もっと話す機会を増やそう」と考えるのは自然なことです。月1回だった1on1を隔週にする。隔週だったものを毎週にする。対話の機会を確保すること自体には意味があります。
ただ、1on1の回数を増やしたからといって、そこで交わされる会話の深さまで自動的に変わるわけではありません。近況や進捗だけを確認する1on1を増やしても、増えるのは「近況や進捗を話す機会」です。
重要なのは、「何回話したか」だけではなく、その場でどこまで未完成なことを話していいと思えるかです。
ここで参考になるのが、心理的安全性に関する研究です。Amy C. Edmondsonは、心理的安全性を、チームが対人的なリスクを取るうえで安全だという共有された認識として扱い、チームの学習行動との関係を研究してきました。また、その後の研究では、リーダーがメンバーの発言や貢献を歓迎する言動と、心理的安全性との関係も示されています(Edmondson, 1999; Nembhard & Edmondson, 2006)。
こうした研究を踏まえ、Bulldozerでは、部下に「相談していい」と伝えるだけでなく、上司自身が未完成な考えを見せ、相手の意見を求めることが重要だと考えています。
もちろん、「上司が悩みを話せば、必ず部下も悩みを話すようになる」という単純な因果関係を、これらの研究が示しているわけではありません。ただ、立場が上の人から「あなたの意見を聞きたい」と示すことは、「ここでは発言していい」と相手が判断する材料の一つにはなると考えられます。
その1on1は、部下に相談を求めるだけの場になっていないでしょうか。上司自身も、相談できる場になっているでしょうか。
5. 相談してほしいなら、上司から先に「困っている」と言う
上司と部下では、同じ一言を口にする難しさが違います。
上司が部下に「どう思う?」と聞くことと、部下が上司に「助けてほしい」と言うことは、同じではありません。評価される側にとって、自分がまだ答えを出せていないことや、うまくできていないことを見せるのは、それ自体がリスクになり得ます。
だからこそ、「何でも相談して」と伝えたあと、部下が最初に扉を開けてくれるのを待つだけでは、状況が変わらないことがあります。
相談してほしいのであれば、立場が上の側から先に「現在形の扉」を開いてみる。
ここでいう「現在形の扉を開く」とは、大きな失敗や深刻な悩みを打ち明けることではありません。すべてをさらけ出す必要もありません。
たとえば次の1on1で、進捗を聞く前に、
「実は今、この案件をどう進めるべきか少し迷っているんだよね」
と口にしてみる。
さらに一歩進めるなら、
「○○さんだったらどう考える? 一緒に考えてもらえると助かる」
と相手の意見を求めます。
これは、「自分の弱さを見せること」そのものが目的ではありません。まだ整理できていないことを話してもいいし、分からないときには人に頼ってもいい。そのことを上司自身の行動で示すことが目的です。

ここで大切なのは、部下にも同じ深さの自己開示を要求しないことです。「自分がこれだけ話したのだから、あなたも話してほしい」となると、自己開示が別の圧力になってしまいます。
相手に扉を開けさせるのではなく、「開けても大丈夫だ」と判断できる材料を増やす。
上司側から先に扉を開くとは、そういうことだと考えています。
6. 「オープンな上司」になることが目的ではない
ここまで読むと、「では、上司は何でも部下に話した方がいいのか」と感じる方もいるかもしれません。しかし、そういう話ではありません。
現在進行形の悩みをすべて共有する必要はありませんし、内容によっては、上司が自分の不安をそのまま渡すことで部下に余計な負担をかける場合もあります。立場上、共有すべきではない情報も当然あります。
「4つの扉」は、深ければ深いほど優れているという評価尺度ではありません。
大切なのは、自分が今どの扉を開いていて、どの扉を閉じているのかを自覚し、必要に応じて選べることです。
全員に対して「要請の扉」まで開く必要もありません。深い相談をする相手が数人だけでもいいでしょう。一方で、部下には現在進行形の相談を求めながら、自分は完成した話しか見せていないのであれば、その違いには一度目を向ける価値があります。
7. 明日の1on1で使える、4つのチェックリスト
では、自分はどの扉まで開いているのか。次の1on1の前に、直近のコミュニケーションを振り返ってみてください。
確認するのは4つだけです。
- 直近3回の1on1で、自分が話したことは「過去の話」が中心だったか、「今の話」も含まれていたか
- 「実は今、迷っている」と部下に話したのはいつだったか
- 部下から「一緒に考えてほしい」と頼まれたことはあったか
- 自分自身が誰かに「一緒に考えてほしい」と頼んだのはいつだったか
特に最後の質問がすぐに思い出せない場合、自分ではオープンにしているつもりでも、「要請の扉」はあまり開いていないのかもしれません。
明日の1on1ですべてを変える必要はありません。まずは部下の困りごとを聞く前に、自分の現在進行形の迷いを一つだけ話してみてください。
そして相手の意見を聞く。さらに助けが必要なら、「一緒に考えてもらえると助かる」と伝えてみる。大げさな自己開示ではなく、「完成する前に話す」を一度試してみるところから始められます。
8. 部下から自然に「助けてほしい」が出てくるチームへ
部下から相談が来ないと、「もっと相談してほしい」「困っているなら早く言ってほしい」と思うものです。しかし、相談する側からすれば、まだ整理できていない悩みを言葉にすること自体が簡単ではありません。
特に問題がまだ小さいときほど、「もう少し自分で考えた方がいいかもしれない」「こんなことを相談していいのだろうか」と迷います。その結果、上司が知ったときには問題が大きくなっていることもあります。
だからこそ、目指したいのは「問題が起きないチーム」ではありません。問題がまだ小さいうちに、「ちょっと助けてほしい」と言えるチームです。
そのために、上司ができることがあります。「何でも相談して」と繰り返すだけではなく、自分自身も、まだ答えの出ていないことを話してみる。そして必要なときには、人に頼ってみることです。
一度やっただけで、チームのコミュニケーションが変わるわけではありません。大切なのは、4つの扉をすべて開けることでもありません。必要なときに、自分で開く扉を選べることです。
まとめ|次の1on1では、自分から一つ相談してみる
「何でも相談して」と伝えているのに相談が来ないとき、私たちはつい「どうすれば部下がもっと話してくれるか」を考えます。
その前に一度、自分が何を話しているのかを振り返ってみる。過去の失敗は話していても、今の迷いは見せていない。部下には相談を求めていても、自分は誰にも助けを求めていない。そんな状態になっているかもしれません。
部下に相談してほしかったら、自分が先に相談してみる。
次の1on1では、部下の困りごとを聞く前に、自分の「今の困りごと」を一つ話してみてください。そして、必要なら相手の意見を求めてみる。
「何でも相談して」という言葉を増やすのではなく、「完成する前に話してもいい」ということを、自分の行動で示してみる。
それが、部下から自然に「助けてほしい」が出てくるチームをつくる、小さな一歩になるのではないでしょうか。
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参考文献
Edmondson, A. C. (1999). “Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams.” Administrative Science Quarterly, 44(2), 350–383.
Edmondson(1999)論文情報・DOI
Nembhard, I. M., & Edmondson, A. C. (2006). “Making it safe: The effects of leader inclusiveness and professional status on psychological safety and improvement efforts in health care teams.” Journal of Organizational Behavior, 27, 941–966.
Nembhard & Edmondson(2006)論文情報・DOI
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