共創という言葉を使う場面が、この数年でずいぶん増えました。クライアントと一緒に考える、現場と一緒に決める、部門をまたいで一緒につくる。この記事では、立場や専門性の異なる人たちが、答えを一方的に渡すのではなく、一緒に考え、意思決定していくことを「共創」と呼びます。
どれも大切なことのはずなのに、進めているうちに、なぜか噛み合わなくなっていく。こちらには次に進むべき方向が見えているのに、相手はまだ決められない。丁寧に説明したつもりなのに、思ったように動き出さない。変革を主導する立場にいる人ほど、こうしたもどかしさを経験することがあります。
私自身、変革の現場に入るとき、長いあいだ「自分は歩み寄りが苦手なのだ」と思っていました。相手が何を分かっていないから決められないのか、それを一緒に分解していく作業は、むしろ得意な方です。けれど、そこから先。相手が気持ちを整理して腹をくくるまでの時間になると、急に苦しくなる。「なぜ、そこでそんなに悩むのだろう」という言葉が、内心で出てきてしまうことがありました。
先日、その感覚を工程に分けてみて、順番が逆だったことに気づきました。
苦手だったのは歩み寄りではなく、歩み寄った「あと」に生まれる待ち時間の方だったのです。
この記事では、共創のプロセスを「診断」と「決め」の2つに分け、なぜ変革を主導する人ほど相手との速度差に苦しみやすいのかを整理します。そのうえで、待ち時間を我慢するのではなく「設計する」ための4つの方法を紹介します。
1. 「もっと歩み寄らなければ」と思うほど、共創が苦しくなる
共創がうまくいかないとき、多くの人はまず自分の姿勢を疑います。もっと相手の話を聴かなければ。もっと丁寧に説明しなければ。もっと相手の立場に立って考えられたらいいのに、と。
もちろん、相手の話を聴くことや、丁寧に説明することは大切です。ただ、問題を「姿勢」の話だけにしてしまうと、翌日から何を変えればいいのかが見えにくくなります。「次はもっと丁寧に向き合おう」と決めても、次の会議で同じようにいらだってしまう。それは意志の問題ではなく、そもそも別のところに原因があるのかもしれません。
そこで、相手に歩み寄るという行為を、姿勢ではなく「工程」として捉えてみます。共創の場で相手と一緒に意思決定していくプロセスは、大きく2つに分けられます。
ひとつは「診断」です。相手が何につまずいているのか、何が分からないから決められないのかを、一緒に分解していく工程です。もうひとつは「決め」。論点が整理されたあと、相手が気持ちやリスク、周囲との関係を整理し、自分の言葉で「やります」と決めるまでの工程です。
「何が問題なのかが分かること」と、「だから自分はこうすると決められること」は、同じではありません。
ここをひとつの工程として扱ってしまうと、「もう論点は整理できたのに、なぜ決まらないのか」という焦りが生まれます。しかし、こちらにとって診断が終わった瞬間は、相手にとって「決め」の工程が始まった瞬間でもあります。
つまり、共創が噛み合わない原因を「歩み寄りが足りない」と捉えるだけでは、問題の半分しか見えていません。必要なのは、もっと優しくなることでも、際限なく相手に合わせることでもなく、自分と相手がいま、どの工程にいるのかを切り分けて見ることです。
2. あなたが速いほど、相手とのあいだに「待ち時間」が生まれる
変革を主導する立場の人は、診断が速いことがあります。似た構造を何度も見てきた経験があるため、話を聞き始めて比較的早い段階で、「詰まっているのはここではないか」と仮説を立てられる。これは経験によって培われた能力であり、それ自体が問題なのではありません。
一方で、診断が速く終わるほど、そのあとにある「決め」の時間との速度差は大きくなります。変革を主導する側では、すでに論点の整理が終わっている。しかし現場や相手の側では、そこから気持ちを整理したり、リスクを考えたり、自分たちとしてどうするかを決めたりする時間が始まっています。

ここで重要なのは、図の下段にある「気持ちの整理と、決め」の時間を、単純な「遅れ」と捉えないことです。相手にとっては、自分の意思で次に進むために必要な時間です。しかし診断を終えた側から見ると、同じ時間が「こちらは何もできずに待っている時間」に見えます。
共創で問題になるのは、どちらかが速いこと、あるいは遅いことではありません。同じ時間を、一方は「意思決定に必要な時間」と捉え、もう一方は「待ち時間」と捉えている。その速度と認識の差が、設計されていないことです。
この「分かっている側」と「まだ分かっていない側」の認識差を考えるうえで、参考になる研究があります。1990年、スタンフォード大学のElizabeth Louise Newtonは博士論文の中で、ある人が有名な曲のリズムを指で叩き、別の人が曲名を推測する実験を行いました。叩き手側は、聞き手が正解する確率を50%程度と予測しましたが、実際に正解した割合は2.5%でした。(出典:Newton, E. L. (1990). The Rocky Road from Actions to Intentions. Doctoral dissertation, Stanford University.)
この研究を、そのまま組織変革や共創の意思決定に当てはめることはできません。ただ、「自分の頭の中ではすでに分かっていることについて、まだ同じ情報を持っていない相手の状態を想像することは難しい」という点では、共創を考えるうえでも示唆があります。
診断が終わった側と、これから決める側のあいだでも、似た認識差が起こることがあります。こちらにはすでに答えが見えているからこそ、相手が何に迷い、何を整理するために時間を必要としているのかが見えにくくなる。その結果、「なぜそこで止まるのか」という感覚が生まれます。
ここには、速い・遅いという優劣はありません。診断が速い人には、経験によって構造を早く捉えられる強みがあります。一方で、時間をかけて考える側にも、納得したうえで意思決定し、自分の言葉で次に進めるという意味があります。
問題は速度差そのものではなく、速度差を前提にせず、同じ時間軸で進めようとすることです。
そして、この速度差を「相手が遅い」と捉え始めたとき、もうひとつの問題が起こります。相手が考えている時間を、こちら側が「損失」として数え始めてしまうのです。
3. 待てないから代わりに決める。その繰り返しが、共創を止める
相手が考えている時間を「待ち時間」と捉えた瞬間から、少しずつ焦りが生まれます。会議が終わり、ボールが相手に渡る。こちらは次に進む準備ができているのに、相手からはまだ答えが返ってこない。その時間は、こちらの帳簿の上では「何も起きていない時間」に見えます。
待ち時間を損失として数え始めると、人はそれを回収しようとします。「その後、どうなりましたか」と進捗を確認する。もう一度説明の場を設ける。場合によっては、しびれを切らしてこちらで結論を出し、相手には実行だけを求める。どれもプロジェクトを前に進めようとする行為ですが、ここから静かに悪い連鎖が始まります。
こちらが代わりに決めれば、その場は確かに前に進みます。しかし、相手が「自分で考え、自分で決める」機会がひとつ減ります。次の局面でもこちらが意思決定を引き取れば、その機会はさらに減っていく。待ちきれずにこちらが決めるほど、短期的には速く進んでも、相手が自分で決める余白は小さくなっていきます。
もちろん、すべての意思決定を相手に委ねればよいわけではありません。必要な情報が足りない場合もあれば、そもそも権限や責任の所在が曖昧で決められない場合もあります。だからこそ、まず「なぜ決められないのか」を診断する。そのうえで、相手自身が通過する必要のある「決め」の時間まで、こちらが引き取らないことが重要です。
変革を主導する側にとって難しいのは、ここです。自分が動けば早く終わる。自分が答えを出せば、会議もプロジェクトも前に進む。それでも共創を目的とするなら、「自分が決められること」と「自分が決めるべきこと」は分けて考える必要があります。
では、相手が決めるまで、こちらはただ待ち続けるしかないのでしょうか。
そうではありません。相手が立ち止まって考えることと、自分まで立ち止まることは、別の話です。
4. 相手が決めるまで、自分まで止まる必要はない
私自身、以前は「待つのが苦手なのだから、もっと忍耐強くならなければ」と考えていました。しかし、待つことを性格の問題として扱う限り、できることは「気をつける」くらいしかありません。
そこで改めて考えてみると、苦しかったのは、相手に時間が必要なことそのものではありませんでした。相手が考えているあいだ、こちらまで何もできず、自分の時間も一緒に止まっているように感じること。その時間を「損失」と捉えていたことの方が大きかったのです。
ここを分けて考えると、選択肢が増えます。相手には、気持ちやリスクを整理し、自分の言葉で決めるための時間が必要です。その時間を無理に短くする必要はありません。一方で、相手が考えるために立ち止まっているからといって、自分まで同じ場所で立ち止まる必要はありません。
変えるべきなのは、相手が決めるまでの時間の長さではなく、その時間にどう関わるかです。診断を終えたら「決め」を相手に返す。次に話す期限だけを決める。そのあいだに自分は別の仕事を進める。そして、そもそも自分と相手には速度差があることを先に共有しておく。
こう考えると、「待つ」か「急かす」かの二択から抜け出せます。
相手には、相手が決めるための時間を渡す。そのあいだ、自分の時間も前に進める。
この両方を成立させることができれば、待つことは「何もできない時間」ではなくなります。必要なのは忍耐力を高めることよりも、速度差があることを前提に、仕事の進め方を組み直すことです。

5. 速度差があっても共創を止めない、4つの方法
ここからは、実際にどう進め方を変えるのかを考えてみます。大がかりな制度を導入する必要はありません。会議の終わらせ方や次の接点の決め方、相手への一言を変えるだけでも、待っている時間の意味は変わります。
1|診断と決めを分けて渡す
ひとつめは、論点の整理までを一緒に行ったら、その場ですべてを決め切ろうとしないことです。こちらの診断が終わったからといって、相手の意思決定まで終わっているとは限りません。
たとえば会議で論点が整理できたら、「こちらから見えている論点はここまでです。結論は今日出さなくて大丈夫です。ここからは一度、みなさんで話してみてください」と区切る。場合によっては、「決め」の場には立ち会わず、相手だけで話してもらうこともできます。
同席していると、相手が考えている時間が、そのままこちらの待ち時間になります。そして沈黙が続くほど、こちらは新しい情報や答えを足したくなる。診断を終えたら、次の意思決定まで抱え込まず、「決め」を相手に返す。それだけでも、双方の時間の流れを切り分けられます。
2|期限だけ決めて、手放す
ふたつめは、いつまでに決めるかだけを合意して、その間は手放すことです。「考えておいてください」だけでは、相手もいつまで考えればいいのか分かりません。一方で、何度も進捗を確認すれば、こちらにその意図がなくても「まだですか」という圧力として伝わることがあります。
そこで、「○日までに一度回答をください。それまではこちらから進捗確認はしません」と、期限と次の接点だけを決めます。プロジェクト全体の時間は管理しながら、その期限までの思考は相手に委ねる方法です。
これは放置することとは違います。期限は一緒に決める。ただし、期限までの考える時間は相手に渡す。管理する範囲と任せる範囲を、あらかじめ分けておきます。
3|待っているあいだ、自分の仕事を進める
みっつめは、相手からの回答を待っているあいだ、自分の仕事まで止めないことです。待ち時間が「何も起きていない時間」である限り、こちらにとっては損失に見え続けます。
たとえば、回答を待つあいだに次の論点を整理する。相手の意思決定に依存しない部分の資料をつくる。あるいは、別のプロジェクトや原稿を進める。相手が考えている時間と、自分が仕事を進める時間を重ねます。
そうすると、相手が考える時間が長くても、そのあいだにこちらでは別のものが積み上がっていきます。相手に十分な時間を渡すためには、自分にとっても「待っていて損をしない状態」をつくっておく。これは、相手のためだけでなく、自分が余裕を失わないためにも重要です。
4|速度差を先に開示する
よっつめは、自分と相手の速度が違うことを、問題が起きる前に共有しておくことです。特に、自分の方が診断や意思決定が速いと自覚している場合、その速度を無意識に相手にも求めてしまうことがあります。
たとえば、「私はこういう議論だと診断が速いので、急かしているように感じたら言ってください」と先に伝えておく。そうすれば、「なぜまだ決められないのか」という相手側の問題ではなく、「私たちには速度差がある」という共通の前提として扱えるようになります。
経験も役割も置かれている状況も違う人たちが集まれば、考える速度が違うのは自然です。大切なのは、その差をなくすことではありません。速度差を誰かの能力や性格の問題にせず、共創するうえで最初から存在する条件として扱うことです。
この4つに共通しているのは、相手を速くしようとしていないことです。そして、自分を無理に「待てる人」に変えようともしていません。
変えているのは、仕事の進め方です。
相手には、相手が決めるための時間を残す。その一方で、自分たちの仕事も止めない。共創とは、全員が同じ速度で進むことではなく、速度が違っても一緒に前へ進める状態をつくることなのかもしれません。
人の性格そのものを変えようとするのではなく、人が動ける時間や場、関わり方を変えていく。組織の文化を変える仕事にも、同じ考え方があります。Bulldozerが「カルチャーエンジニアリング」と呼んでいるものも、こうした環境や関係性の設計から始まります。
6. 待てるようになると、相手が「自分で決める」余白が生まれる
ここまでの話を、自分がいま関わっているプロジェクトに置き換えてみてください。相手から答えが返ってこないとき、私たちはつい「まだ決められないのか」と考えます。しかし、その時間は本当に停滞なのでしょうか。
相手にとっては、論点を理解したあと、自分の意思として引き受けるための時間なのかもしれません。そうだとすれば、こちらがすべきなのは、その時間を無理に短くすることではなく、自分まで一緒に止まらない進め方をつくることです。
次の会議では、まずひとつだけ試してみてください。「今日、ここで決める必要はあるだろうか」と自分に問いかけることです。
診断が終わっているなら、その先の「決め」は相手に返す。期限だけ合意して、自分は別の仕事を進める。小さな切り分けですが、それだけでも「待つか、急かすか」の二択から抜け出しやすくなります。
共創とは、全員が同じ速度になることではなく、違う速度のままでも、それぞれが自分の意思を持って前に進める状態をつくること。
今回、自分自身の「待てなさ」を分解してみて、私はそう考えるようになりました。
もっと考えたい人へ
今回の「待つ/決める」という話は、個人間のコミュニケーションだけの問題ではありません。誰が決めるのか、どこまで任せるのか、異なる速度を持つ人たちがどう一緒に動くのか。組織のつくり方にもつながっています。
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耳で深掘りしたい人へ
Podcast「天上天下主客反転、ブルドーザーの企業解体新書!」では、企業や組織の中で起きているリアルな課題を取り上げ、その背景にある構造を毎週解体しています。
記事ではひとつのテーマを整理してお伝えしていますが、Podcastでは、実際の組織でなぜその問題が起きるのか、経営と現場では同じ出来事がどう違って見えるのかなど、対話だからこそ掘り下げられる部分も扱っています。
移動中などに、耳から考えたい方はこちらからお聴きいただけます。
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自社で実践したい人へ
ここまで紹介してきた4つの方法は、個人でも明日から試すことができます。一方で、同じようなすれ違いが複数の部署やプロジェクトで繰り返されている場合、それは個人のコミュニケーションだけではなく、組織の構造や文化に原因があるかもしれません。
「誰かが決めてくれるまで動けない」「一部の人だけが意思決定を引き取っている」「経営と現場で変革の速度が合わない」。こうした状態を、誰かの性格や意識の問題として解決するのではなく、人が動ける環境や関係性から捉え直す。それが、Bulldozerが取り組んでいるカルチャーエンジニアリングです。
人を変えようとする前に、人が自分で考え、決め、動ける状態をつくる。
もし今回の記事を読みながら、自社にも似た構造があると感じた方は、Bulldozerの取り組みもご覧ください。
そして最後に、この記事を書きながら、自分自身にも改めて問い直していることがあります。
あなたが最後に誰かを待った時間は、その人が「自分で決める」ための時間になっていたでしょうか。
それとも、待ちきれずに、あなたが代わりに決めてしまったでしょうか。
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