つい先週の金曜、朝起きた瞬間に「今日は無理だ」と体が言いました。
週の前半は日帰り出張が2回続き、移動のたびに少しずつ体力を使っていたはずです。それでも木曜までは普段どおり仕事ができていました。「まだ大丈夫」と思っていたのです。しかし金曜の朝、これまで積み重なっていた疲労が一気に表面化しました。なんとか起き上がったものの、頭も体も思うように動かず、「今日は止まらなければいけない」とようやく気づきました。
「休み方がわからない」と感じている人は、決して少なくないのではないでしょうか。休もうと思っていても、気づけば予定を入れてしまう。無理をしているつもりはないのに、限界まで走り続け、最後は動けなくなってからまとめて休む。私も今回の出来事を通して、休めない原因は意志の弱さではなく、「休み方の設計」にあるのではないかと考えるようになりました。
「休もう」という意志は、疲労より後に届く
疲れている人に対して、「もっと自分を大切にしてください」「無理をしないでください」と声をかけることがあります。もちろん、その言葉は間違っていません。しかし、その一言だけで休めるようになる人は、それほど多くないのではないでしょうか。なぜなら、休むかどうかの判断を「疲れたと感じる感覚」に委ねている限り、その判断そのものが遅れてしまうからです。
少なくとも私は、普段どおり動けている間は、自分の疲労を過小評価してしまいます。木曜までは問題なく働けるため、「まだ余裕がある」と思ってしまう。そして金曜になって初めて体が限界を知らせる。これはアクセル性能が高い一方で、ブレーキだけが後付けになった車のような状態です。意志にブレーキを任せる設計では、止まる頃にはすでに限界を超えているのです。
だから必要なのは、「もっと意識して休もう」と自分に言い聞かせることではありません。疲れを感じる前に止まれる仕組みをつくることです。休むことを意志の問題ではなく、設計の問題として捉え直すことが出発点になります。

組織で起きていることが、自分にも起きていた
私は普段、企業の組織文化を変える仕事をしています。その中で一貫してお伝えしているのは、「人を変えようとしても組織は変わらない。行動を支える設計を変えることで、結果として文化が変わる」という考え方です。
例えば、「もっと安全を意識しよう」と呼びかけるだけでは事故は減りません。「挑戦する文化をつくろう」と号令をかけても、組織の空気は変わりません。一方で、会議の進め方や評価制度、意思決定のルールといった行動の前提を変えると、人の振る舞いは驚くほど自然に変化します。文化は意志ではなく、設計によって育まれるものだと、私たちは考えています。
ところが今回、金曜の朝に動けなくなって気づきました。組織には「意志ではなく設計」と伝えてきた私自身が、自分の休み方だけは「気をつけよう」「無理をしないようにしよう」という精神論で運用していたのです。仕事では設計を信じていたのに、自分の体だけは意志で管理できると思い込んでいました。
「余白」は、成果を支える設計である
この経験をきっかけに、私は「余白」に対する見方も変わりました。予定が隙間なく埋まっていると、「充実している」「生産性が高い」と感じることがあります。しかし、本当に成果を出し続ける人や組織は、常に100%の稼働で走り続けているわけではありません。変化や予期せぬ出来事に対応できるよう、あらかじめ余白を設計しています。
この考え方を裏付ける興味深い事例があります。Slack社は200名以上の社員を対象に、2週間にわたり「毎日休憩を促すリマインド」を送り、リーダーも休憩を推奨するなど、休憩を取りやすい仕組みを意図的に設計する実験を行いました。その結果、生産性は21%、ワークライフバランスは73%向上し、ストレスへの対処能力は2.3倍になるなどの改善が報告されています。重要なのは、「休んでください」と呼びかけたことではありません。休めるように環境を設計したことです。
私たちが組織づくりで大切にしているのも、まさにこの発想です。人は「正しい」と理解していても、その通りに行動できるとは限りません。だからこそ、行動を変えたいのであれば、意志を鍛えるのではなく、行動を後押しする仕組みを設計する必要があります。
休み方も同じではないでしょうか。疲れたら休もうと思うのではなく、疲れる前に休めるよう予定やルールの中に余白を組み込んでおく。余白とは、仕事を減らすためのものではなく、成果を出し続けるために設計するものなのだと思います。
出典
Slack Technologies, “Case study: What happened when we took a break at Slack”
https://slack.com/blog/productivity/case-study-what-happened-when-we-took-a-break-at-slack
休みも、「設計」の対象にできる
ここまで書いてきて、私が一番お伝えしたいのは、「休むこと」も設計の対象だということです。
私たちは、休めない原因を「自己管理が苦手だから」「もっと意識しなければ」と考えがちです。しかし、組織づくりに携わる中で何度も感じてきたのは、人は意志だけでは変われないということです。行動が変わるのは、行動を支える環境やルール、仕組みが変わったときです。
今回、私自身が金曜の朝に動けなくなったことで、その考え方は、自分自身にも当てはまることに気づきました。休み方も、気合いや根性に頼るのではなく、予定の組み方や判断の基準を設計することで、初めて無理を続けない働き方が実現できます。
休むことを精神論ではなく、設計の問題として捉え直すこと。それが、長く成果を出し続けるための第一歩なのだと思います。
回復力は、「頑張り続ける力」ではない
心理学には「レジリエンス(Resilience)」という概念があります。一般的には「逆境から立ち直る力」と訳されますが、近年では、困難な状況に適応し、回復していく力として捉えられています。
つまり、成果を出し続ける人とは、疲れない人ではありません。疲れたときに回復できる人です。そして回復は、その場の気合いや根性だけでは実現できません。回復できる時間や環境をあらかじめ設計しているからこそ、長く安定して成果を出し続けられるのです。
今回、私自身が金曜の朝に動けなくなったことで、その当たり前を改めて実感しました。休むことは、仕事を止めることではありません。仕事を続けるための条件だったのです。
実践例:私自身は、こんな「休みの設計」を始めています
ここまでお伝えしてきたのは、あくまで考え方です。では実際に、私はどのように「休みを設計」しているのでしょうか。現在、私が意識して続けていることを3つご紹介します。大切なのは、この方法そのものではなく、「意志に頼らず、仕組みで休める状態をつくる」という発想です。
回復の時間を、仕事より先に予定へ入れる
以前は「時間が空いたら休もう」と考えていました。しかし、私の場合、予定表の空白は気づけば仕事で埋まってしまいます。そこで今は、出張や登壇など負荷の高い予定を入れたら、その翌日に回復のための時間を先に確保するようにしています。仕事は、その残りの時間で組み立てる。この順番に変えただけで、「今日は休むべきか」と毎回悩むことがなくなりました。
「無理しない」ではなく、上限を数字で決める
「無理しない」という言葉は大切ですが、人によって基準が異なり、その日の気分にも左右されます。そこで私は、「日帰り出張は週1回まで」といったように、自分なりの上限を数字で決めています。実際、今回体調を崩した週は、日帰り出張が2回続いていました。数字という客観的な基準があることで、「断る勇気」ではなく、**「断れる仕組み」**をつくれるようになりました。
毎朝、自分の状態を見える化する
もう一つ続けているのが、自分のコンディションを毎朝数値で記録することです。睡眠の質や起きやすさ、肩や首の張り、気分などを5段階で記録し、その日の状態を感覚だけで判断しないようにしています。
例えば、ある日は「睡眠の質:2」「起きやすさ:2」「肩・首の張り:4」「気分:2」といった具合です。一つひとつの数字だけを見ると大きな問題はないように思えても、全体を見ると「今日は無理をしないほうがいい」というサインが見えてきます。今回の金曜も、記録を振り返ると、前日までの数値にはすでに小さな変化が表れていました。あのときは見過ごしてしまいましたが、数字はきちんとサインを出してくれていたのです。
感覚は、ときに「まだ大丈夫」と自分を錯覚させます。しかし、数字はその変化を淡々と教えてくれます。だから私は、その日の判断を気合いや根性ではなく、見える化した状態をもとに行うようにしています。

あなたの「休み」は、設計されていますか?
最後に、自分の休み方を振り返るための問いを置いておきます。
次の項目のうち、当てはまるものがないか確認してみてください。
- 回復の時間が、「予定が空いたら取るもの」になっている
- 負荷の大きい予定のあとにも、そのまま予定を入れてしまう
- 「無理をしない」という感覚だけで予定を判断している
- 睡眠や気分、体の状態を記録していない
- 休むのが、いつも限界を迎えたあとになっている
当てはまる項目が多い場合、休むことを意志に任せすぎているのかもしれません。
見直すべきなのは、自分の性格ではなく、予定の組み方や判断の基準です。大切なのは、「もっと気をつけよう」と考えることではなく、疲れ切る前に止まれる状態が、仕組みとしてつくられているかを確認することです。
おわりに
金曜の朝、体が動かなくなったとき、私はようやく、自分がずっと見落としていたことに気づきました。
組織には、「人を変えようとするのではなく、行動を支える設計を変えましょう」と伝え続けてきたのに、自分の休み方だけは、「気をつけよう」「無理をしないようにしよう」という精神論に頼っていました。
考えてみれば、不思議なことです。仕事では設計を信じていたのに、自分のことになると、なぜか意志だけは例外だと思い込んでいたのです。
もちろん、今回ご紹介した方法が正解というつもりはありません。人によって働き方も、回復の仕方も異なります。だからこそ大切なのは、方法をそのまま真似することではなく、「休むことも設計できる」という発想を持つことではないでしょうか。
休めないのは、意志が弱いからではありません。まだ、休める設計になっていないだけです。
もし最近、「休み方がわからない」と感じているなら、来週の予定表を開いたとき、新しい予定を一つ入れる前に、回復のための時間を一つだけ先に入れてみてください。
その時間は、何もしないための余白ではありません。
来週も、その先も、自分らしく走り続けるための設計なのだと思います。
ちなみに、「意志ではなく設計に働いてもらう」という考え方そのものは、私たちが組織文化の変革を支援する中でたどり着いたものです。
この記事では個人の「休み方」をテーマに書きましたが、その背景にある考え方は、こちらの記事で詳しくお話ししています。
▼価値を生み出し続ける組織は、どうすればつくれるのか ─Culture Engineeringという新しい組織づくりにたどり着くまで
https://bulldozer.co.jp/blog/why-culture-engineering/
組織づくりや企業変革については、Podcast「天上天下主客反転、ブルドーザーの企業解体新書!」でも、現場で感じたことや実践事例を交えながら毎週お話ししています。移動中や家事の合間など、「ながら聴き」でお楽しみいただければ幸いです。
▼Spotify
https://spotifycreators-web.app.link/e/7XP713M9O4b
▼YouTube
組織文化の変革支援については、株式会社BulldozerのWebサイトでもご紹介しています。
▼株式会社Bulldozer
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