昨今、とりわけビジネスにおいて、「アート思考」に注目が集まっていますが、「アート思考」は絵を描くことを取り入れた思考法と思ってはいませんか?
アート思考は、絵を描く方法を学ぶ、絵画鑑賞の仕方を学ぶ、感性や直感を鍛えるものだからビジネスとは縁遠いもの、などと勘違いされがちな傾向がありますが、そうではありません。
本記事では、世界で唯一のアート思考専門コンサルティング会社である弊社、株式会社Bulldozerが「アート思考」について、具体例を交えながら2023年3月現在、どの本にも負けない濃厚さで解説していきたいと思います。
アート思考とは
では、まずアート思考とはどのような思考法なのか、ご説明していきます。
アート思考(アートシンキング)とは、芸術家が作品を通じて、自らが提案したい未来や、現代への問いを投げかけることと同じように、ビジネスマンも事業を通じて、自らが提案したい未来や、現代への問いを投げかける思考方法です。
より具体的には、「現在と連続性のある明日の積み重ね」ではなく、現在とは脈略がなさそうにも見える「自分の欲しい飛躍した未来を描き、形にしていく」ための思考方法です。
アート思考の具体例
歴史上の創業者からも、アート思考の具体例をみることができます。
日清食品グループの創業者、安藤百福は、戦後の食糧難でかつ復興に向かって人々が邁進していた時代に、手軽に素人でも食べられるチキンラーメンを開発しました。当時、ラーメンは屋台で食べるもので、家庭で食べられるものではありませんでした。また、今のように即席麺はなく、お湯を注ぐだけで食べられる麺という概念は全くありませんでした。
その後、忙しく働きまわる日本人が片手で食べられる食事をと考え、カップヌードルが誕生します。それが世界に広がり、カップヌードルは地球上どこでも食べられる即席麺となりました。今では、カップヌードルは宇宙食にもなっています。
アート思考とは、まだない概念や価値を具現化し、未来を提案して時代をすすめる創業者思考ともいうことができます。
安藤百福が当時既存の概念から食品を開発していたら、おにぎりを真空パックに入れる、というような商品開発をしていたかもしれません。彼は、提供すべき価値の本質を見抜き、適切な提供方法で提案を行えたからこそ、チキンラーメン、カップヌードルという大発明が実現されたのです。
アート思考とデザイン思考の違い
アート思考より少し前から、ビジネス界で注目され始めた思考法に「デザイン思考」があります。アートもデザインも、クリエイティブな印象をもつ言葉で、似通った思考法と思われがちですが、実はその機能や役割は真反対の発想とも言えるほど異なるものです。
デザインとは、創造性を用いて顧客が抱える課題を解決すること。
一方アートとは、自らが提案したい未来や現代への問題意識を出発点とし、これまでになかったものを新たに創り出すことです。
したがって、ユーザーの課題解決をするのがデザイン思考、自己を起点に既存の概念にとらわれず未来を描くのがアート思考なのです。
デザイナーではない一般の方がデザイン思考で新しい価値を生み出そうとすると、消費者・現在を起点で考えるため、過去・現在の延長線上に思考に制限されやすくなります。
一方アート思考は、思考を未来に飛躍させ、理想を思い描いてから、現在における新しい価値の創出を考えるため、現代の常識の壁を超えた発想を得ることができます。
つまり、アート思考では、大分脈に沿いながら「脱常識」的な思考ができているかが重要視され、「0から1を生み出す」思考法ともいえるのです。
デザイン思考とアート思考の違いを、ガラパゴス携帯とスマートフォンの具体例をあげてさらにご説明したいと思います。
人々がガラパゴス携帯を使っていた頃から、携帯電話の進化をデザイン思考で考えた場合、
画面の解像度が高く、カラーで表示され、美しい画像が見られる携帯電話を開発しようと考え、もしかしたら4Kのガラパゴス携帯が誕生していたかもしれません。
しかし、スマートフォンが誕生したのは、アート思考的な発想があったからといえるのです。電話やメールの機能が主流だったガラパゴス携帯が普及していた時代に、「人が持ち運べるパソコンのような機器があったら、暮らしはもっと便利になる!」という未来の理想像を元に開発が進められたから、スマートフォンが生まれました。
アート思考は、常識の壁を突き破ったこれまでにない新価値の創出にこそ、非常に有効なのです。
アート思考が注目されている理由
アート思考が注目されている理由は、大きく3つあげられます。
1. 市場に同じような商品・サービスが溢れている
各企業が市場・競合分析を行い、商品・サービスを開発することで、市場は似たような商材で溢れています。”ムーアの法則”と呼ばれるように技術革新のスピードも早いため、新しい商品・サービスもすぐに陳腐化してしまいます。
また、業界を跨いでの新規参入が多くなったことで、市場に企業が溢れ、同時に商品・サービスも溢れているため、結果的に価格競争が激しさを増すばかりとなっています。こうして市場は、企業による飽和状態に陥っています。
そこで、既存の発想・概念にとらわれない、まったく新しい、またその企業ならではの付加価値を創出することが求められています。
個人、企業の個性を原点に「顧客に何を届けたいのか」、「どんな未来を創りたいのか」を追求した先で、自社の価値創出を考えるというアート思考のアプローチが求められているのです。
2. VUCA
生産の技術革新が進み、また情報伝達スピードも増す中、今後の予想が立てにくいVUCAの時代であるといわれます。
VUCAとは、Volatality(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)から成ります。
変動が多く、不確実で、複雑で、曖昧な時代だからこそ、これまでを踏襲する発想では対応ができなくなっているということです。
これまでの常識から一旦離れ、これからの自分・自社のあるべき姿を考えるアート思考は、VUCAの時代を生き抜く術ともいえます。
3. AIにない発想が求められている
AIが人間の能力を超えるシンギュラリティが起こっている中、これまで以上に「人間にしかできないこと」を追求することが求められています。
これまで多くの労働力がIT化、システム化されてきたように、これからも多くの労働力がDX化、AI化されていくでしょう。そんな中で、固有の付加価値を生み出せるかどうかは、一人一人の能力やモチベーションが肝になってきます。
こうした積み重ねの先に生まれてくるものが、人間が特有に持つ想像力と創造力です。これらを元に、過去・現在から飛躍した発想で新しいものを生み出す力は、AIが取って変えることのできない能力です。
人間だからこそできることをさらに磨き、開花させ、AIと共存していく上での思考法としてアート思考が役立ちます。
アート思考の導入から得られる効果とアプローチできること
アート思考を導入することで得られる効果は、自分・自社だからこそできる事業や取り組みが見つかることです。
これまでの既存のものにとらわれず、自分・自社のオリジンを核に発想を飛躍させるので、最終的に個性を活かした方針や施策まで突き詰めることができます。
アート思考を用いると、以下のような効果を狙ったアプローチが可能です。
1.愛社精神の増幅
2.働きがいの増幅
3.次期経営幹部候補発掘
4.ブランド存在意義の再確立
5.未来洞察力の向上
6.パーパス経営の浸透とエンゲージメント向上
7.自社の創出価値や事業領域の再定義、中期経営計画の策定
8.自社の未来像や方向性の検討
9.脱常識的な思考回路の構築
10.次期事業開発担当の適正判断、人材発掘
11.DX推進
12.機動性と機能性を高めるチームビルディング
アート思考の導入から生じるデメリット
アート思考のデメリットとして、チームプレーには適さないとの指摘もみられます。
しかし、オリジンベースド・アートシンキングでは、自分のオリジンを追求したあとに、会社のオリジンを考え、それをチームメンバーで共有するプロセスを踏みます。このようなアプローチにより、アート思考をやる前よりもむしろチームの連帯感が高まったという例なども出てきています。
市場に商品・サービスや企業が溢れ、またシンギュラリティが押し寄せるVUCAの時代において、アート思考は必須の思考法ともいえると思います。
アート思考の進め方・フレームワーク
これまでご紹介した内容から、アート思考とはどのようなものか、ご理解いただけましたでしょうか。
今までにも、各社がアート思考のフレームワークを活用してきた取り組み事例がありますが、ここでは弊社、(株)Bulldozerのアート思考フレームワークを簡単にご紹介したいと思います。
フレームワークの解説とその場でできるワークを交えながら解説していきますので、実際に手と頭を動かしながらお読みいただければと思います!紙とペンをお手元にご用意の上、続きを読んでいきましょう。
弊社のフレームワークは、大きく分けて3つのステップで進めていきます。
ステップ① Why
ステップ② What
ステップ③ How
です。
ステップ① Whyにおけるポイントは、「オリジンによる自分ゴト化」です。
オリジンは、存在意義とも言い換えられます。自分・自社のオリジンを核に、「自分ゴト化して思考できているのか」が重要です。ステップ① Whyで見直した自分・自社の存在意義が、最終的にたどり着くネクストアクションを実行する理由(Why)になっていくからです。
またステップ② Whatのポイントは、「文脈を汲んだ客観性を持ちつつ、ゼロベースかつバックキャストで考えること」です。
バックキャストとは、初めに目標となる未来像を描き、次にその未来像を実現するためのシナリオを未来から現在に遡って考える手法のことです。
過去・現在にとらわれずに、バックキャストで思考したものが、オリジンを原点とした大きな文脈にフィットしているか、という俯瞰する視点を持つことが求められます。
最初に目標とする未来像を描き、次にその未来像を実現するための道筋を未来から現在へさかのぼって記述するシナリオ作成手法
そして、ステップ③ Howでは、「本質的な価値を考えて、ベストな方法で届けられているか」がポイントとなります。
自分・自社の提供価値の本質を見極め、最適な提供手段を選定できているのか、を改めて考え直します。
本質を突いていても、価値の提供手段が理にかなっていなければ、適切に価値を届けることが難しくなるからです。
ワークを通じてアート思考を体感してみよう!
① 今ご自身の周りにあるものを一つ選んでください。
鉛筆、消しゴム、鏡、ライター、スマートフォン、等々なんでも良いです。
② 選んだものを見ながら、興味をもったこと、疑問に思ったこと等、思いついたことを全てかみにリストアップします。
どのような工程で作られたものか?どのような歴史があるのか?どのような特徴があるのか?また、あなたが今、ペンについて考えているとしたら、自分はなぜこのペンを買ったのか、から考えてみるのも面白いかもしれませんね!
③もっと知りたいと思ったことをメモし、本やインターネット、またその疑問や関心について詳しい人に訊ねてみる等し、情報を付け加えていきましょう。
④ ①〜③のワークをする中で、
・知っている知識
・今回調べた知識
・知識と知識がつながった時に発見したこと、考えたこと
を中心に、周りの人に話してみて意見を交換したり、再度自分で紙に書き出してみましょう。
なぜ自分はそう考えたのか、という観点から大切にしている価値観(哲学)を探してみましょう。
⑤ どんなことをさらに知れたら、ワクワクするかを考えてみましょう。
このワークをする前より、少し視野が広がったり、考えが深まったりしている今、どのようなことをやってみたいか、どんな世界を創っていきたいか、について、周りの人と共有したり、考えたりしてみてください。
次回、このワークで取り扱う違うトピックを探してみるのも良いと思います。
このような流れに沿って、知識と知識のつながりから、世界への理解が深くなっていく体験を重ねていくことが、とても重要だということを、体感していただけましたか?
ぜひトピックやメンバーを変えながら、何度も試してみていただければと思います。
上記のワークは、弊社でご提供しているアート思考のフレームワークのほんの一部です。企業様のご要望や課題意識に併せ、プランもアレンジが可能ですので、お気軽にお問い合わせください。
以下の記事は、親子でできる思考力の伸ばし方、という切り口で寄稿したものです。アート思考は、ビジネスシーンをはじめ、子どもの思考力向上にも役立ちます。
https://benesse.jp/kyouiku/202201/20220123-1.html
まとめ
アート思考はどのようなものか、そしてどのように身につけていくものか、お分かりいただけましたでしょうか。
変化が多く、スピードも速い時代において、AIに取って変わられない人間ならではの価値創出を追求するために、今やアート思考は必須の思考法といえるのではないでしょうか。
他にもアート思考にまつわるコンテンツを順次リリースしてまいりますので、ご興味を持っていただけましたら幸いです。
アート思考で“脱常識”な新しい価値を
Bulldozerでは、
・未来創造
・パーパス経営
・イノベーション
・人的資本経営
これらの分野においてアート思考を用いた完全オーダーメイドのワークショップ型コンサルティング、イベント、コンテンツ開発などをご支援しています。
各企業さま・部門・キャリア層に合わせて、これまで手が届かなかった痒いところ、うまく言語化できずにモヤモヤしていたところを、具体的に業務に落とし込む道を開拓します。
ご興味をお持ちいただいた方は、ぜひお気軽にお問い合わせください!私たちはお客様のビジネスやプロジェクトに最適なアート思考のアプローチを見つけるお手伝いをいたします。まずはお打ち合わせで、才能爆発や新たな可能性を感じてください。
▼Bulldozerのお問い合わせフォーム
https://bulldozer.co.jp/contact/
▼Bulldozerのサービス紹介
https://bulldozer.co.jp/service/
▼Bulldozerの事例紹介
https://bulldozer.co.jp/case_study
他のおすすめ記事をみる
Contact
資料のダウンロード・
お問い合わせはこちらへ
「アート思考、良さそうだけどピンときてない・・・」「うちの組織にどう適用したらいいかわからない」
そう思うのは自然なことです。どんなことでもお気軽にご相談ください。