今年の夏、うちの会社に海外の大学からインターン生が来ています。そのうちの一人が、驚くほど仕事ができる。何がそんなに違うのかとしばらく観察していて、気づいたことがありました。
彼女は、自分が何をわかっていて、何をわかっていないかを、非常に細かく把握しています。できないことを「できない」とまとめずに、どこまではできて、どこから先ができないのかを、その都度切り分けている。そのうえで、切り分けた先だけを質問してきます。
仕事を進めるうえで、知識が多いことや経験が豊富なことはもちろん大切です。ただ、それだけでは説明できない仕事の進め方の違いがある。彼女を見ていて感じたのは、伸びる人は「自分の現在地を見る解像度」が高いということでした。
これは、一人のインターン生に限った話ではないと思っています。人材育成について企業の方と話していても、「同じ研修を受けているのに、伸びる人とそうでない人がいる」という話はよく出てきます。その差は、与えられた学習機会の多さだけではなく、自分の現在地をどれだけ細かく捉えられているかによって生まれているのではないでしょうか。
なぜ、同じように育成しても「伸びる人」と「伸びない人」がいるのか
多くの会社で、育成の打ち手は着実に増えました。階層別研修、選抜研修、資格支援、外部セミナー、eラーニング。以前と比べれば、社員が学ぶ機会そのものはかなり整ってきています。
それでも、伸びる人は伸びる一方で、そうでない人はなかなか変わらない。同じ研修を受け、同じように学習機会を与えているのに、なぜ差が生まれるのでしょうか。
ここで見落とされやすいのは、機会を増やすことと、その機会を使える状態にすることは別だという点です。**同じ研修を受けても、自分の現在地がわかっている人は、「自分には何が足りないのか」と結びつけながら学べます。**一方で現在地が曖昧なままだと、研修で良い話を聞いても、自分の仕事のどこに使えばいいのかがわからない。「勉強になった」で終わり、翌週の仕事は何も変わらないということが起きます。
人材育成というと、どうしても「何を教えるか」「どんな研修を用意するか」という提供側の議論になりがちです。しかし、同じ育成施策でも受け手によって成果が変わるのであれば、見るべきなのはコンテンツだけではありません。
育成投資の効き方を左右するのは、研修の質だけではなく、受け手が自分の現在地をどこまで把握できているかです。
AI時代、「答えを早く出す人」だけでは差がつかなくなった
ここ数年、コスパやタイパという言葉が、仕事でも頻繁に使われるようになりました。できるだけ無駄を省き、最短距離で答えにたどり着く。そうした仕事の進め方に価値が置かれてきたわけです。
ただ、生成AIが当たり前に使われるようになると、この前提も少し変わってきます。調べたいことを入力すれば、それらしい答えは数秒で返ってくる。情報を探し、整理し、一定の形にするまでの時間は、以前より大幅に短くなりました。
そうなると、「答えに早くたどり着けること」だけでは、以前ほど大きな差になりません。むしろ重要になるのは、その手前です。何を聞くべきなのか。返ってきた答えのどこが足りないのか。そもそも自分は、何についてわかっていないのか。
答えが手に入りやすくなった時代ほど、差がつくのは「問いを立てる力」です。
そして、問いを立てるには、自分が何をわかっていて、何をわかっていないのかを把握する必要があります。ここに、伸びる人とそうでない人の違いがあるのではないかと、私は考えています。
では、伸びる人は何が違うのでしょうか。
伸びる人は、物事を捉える「解像度」が高い
観察していると、伸びる人は、わかること/わからないこと、できること/できないことを、かなり細かく分けて捉えています。何かにつまずいたときにも、「全部わからない」「全部できない」とひとまとめにしません。
たとえば、「この案件、うまく進められません」で終わる人もいれば、「顧客の課題整理まではできています。ただ、提案の値付けに根拠が持てません。過去の似た案件の粗利がわかれば、考えられそうです」と言える人もいます。
同じ「わからない」でも、後者はどこで止まっているのかがわかる。ここまで見えていれば、次にやることは決まります。過去の案件を調べればいい。仕事ができる人は、こうやって「わからない」を、自分が動けるところまで細かくしているのだと思います。

反対に、「この案件がうまくいかない」という大きな塊のままだと、何から手をつければいいのかわかりません。上司に相談するとしても、「どうすればいいですか」と聞くしかなくなる。自分がどこで止まっているのかが見えていないからです。
ここでいう「解像度が高い」とは、難しいことを最初から全部理解できるという意味ではありません。むしろ、わからないものに出会ったときに、「どこまではわかるのか」「何がわからないのか」「何があれば先に進めるのか」と、細かく捉え直せることです。
伸びる人は、何でもわかる人ではありません。わからないものを、わからないまま大きく抱えない人です。
そして、この違いが「粘り強さ」にもつながっているのではないかと思います。
粘り強い人ほど、難しい仕事を小さくしている
粘り強い人というと、難しいことがあってもあきらめず、長い時間考え続けられる人をイメージするかもしれません。
もちろん、簡単に投げ出さないことは大切です。ただ、仕事ができる人を見ていると、難しい問題を大きなまま抱えて、ずっと耐えているわけではありません。むしろ逆で、難しいものほど細かく分けて、自分ができることを一つずつ見つけています。
「この案件を成功させる」と考えると、やることは大きすぎます。でも、「まず顧客の課題を整理する」「次に判断に必要な情報を集める」「わからないところは経験のある人に聞く」と分けていけば、一つひとつは手を動かせる大きさになります。
一つ終われば、また現在地を見る。そこで新しくわからないことが出てきたら、もう一度細かくする。そして、できることから一つずつ進めていく。
粘り強い人は、大きな問題を大きなまま抱えて耐えているのではなく、自分が動ける大きさまで分解して、一つずつ着実に進めています。
だから、「粘り強さ」は単純な根性の話ではないのだと思います。その手前には、物事を細かく捉える力がある。難しいものをかみ砕き、「今の自分にできること」に変えられるから、途中で止まらずに進み続けられます。
そう考えると、育成の現場で「もっと粘り強くやろう」「あきらめずに最後までやりきろう」と伝えるだけでは、なかなか変化は起きません。本人からすれば、やりたくないから止まっているのではなく、何をすれば前に進めるのかが見えていないこともあるからです。
育てたいのは、ただ我慢してやり続ける力ではありません。難しいものにぶつかったときに、自分でかみ砕き、次にできることを見つけ、一つずつ前に進める力です。
では、その力を身につけるために、現場では何ができるのでしょうか。
今日から使える、「現在地の解像度」を上げる3つの問い
特別な研修を新しく用意しなくても、日々の仕事の中で使える問いがあります。
部下や後輩から「わかりません」「うまくできません」と相談されたとき、すぐに答えを渡すのではなく、まずは次の3つを一緒に確認してみてください。
- どこまではわかっていて、どこから先がわからないのか
- わからないのは、知識がないからか、経験がないからか、判断の基準がないからか
- 次の一歩は、誰に聞けば動くのか。それとも、何を試せば動くのか

1つめは、境界線を引く問いです。「何がわからないの?」と聞くより、まず「どこまではわかっている?」と聞いてみる。わかっている範囲の端が見えると、どこから先で止まっているのかも見えやすくなります。
2つめは、「わからない」の種類を見分ける問いです。知識が足りないのであれば、調べればいい。経験が足りないのであれば、経験者に同席してもらったり、まず小さく試したりする方法があります。判断の基準がないのであれば、上司やチームと基準をすり合わせる必要があります。同じ「わからない」でも、何が足りないかによって、次にやることはまったく変わります。
3つめは、実際にどう動くかを決める問いです。誰かに聞けば進めるのか。それとも、自分で何かを試せば進めるのか。ここまで見えてくれば、「わからない」は漠然とした大きな問題ではなく、自分が手を動かせる課題になります。
この3つの問いは、1on1でも使えます。進捗を確認して、問題があれば上司が答えを渡す。それだけではなく、「本人はいま、どこまで見えているのか」「どこから先で止まっているのか」を一緒に確かめる時間にする。
もちろん、部下に対してだけ使うものではありません。自分自身の仕事が止まったときにも、「どこまではわかっているか」「足りないのは知識・経験・判断基準のどれか」「次に誰に聞くか、何を試すか」と考えてみる。
「わからない」を自分が動ける大きさまで細かくできれば、次にやることが見えてきます。その一歩を積み重ねることが、結果として粘り強く仕事を進めることにつながります。
人材育成は「知識を足す」から「自分で次の一歩を見つけられる」へ
ここまで書いてきたことを、人材育成という視点でもう一度考えてみます。
研修を増やす。新しい知識を教える。必要なスキルを身につけてもらう。もちろん、どれも大切です。ただ、人材育成を「足りないものを足すこと」だけで考えていると、見落としてしまうものがあります。
知識があっても、自分がどこでつまずいているのかわからなければ、それをうまく使えません。反対に、自分の現在地が見えていれば、「ここは自分で調べられる」「ここは経験が足りない」「ここは判断基準を上司と確認したい」と、自分から次の一歩を考えられます。
一度、チームの普段のやり取りを思い浮かべてみてください。
- 直近の研修で、受講者は自分の現在地を言葉にできていましたか
- 「わかりません」と言われたとき、「どこまではわかっている?」と聞き返していますか
- 育成の成果を、受講率や満足度だけで見ていませんか
- 伸び悩んでいる人について、意欲がないのか、そもそも現在地が見えていないのかを切り分けられていますか
ひとつでも引っかかるものがあれば、次に足すべきものは、新しい研修ではないかもしれません。
すでにある1on1や日々の振り返りの中で、「どこまではわかっている?」「何があれば次に進める?」と問いかける。それだけでも、育成のあり方は少し変わります。
上司が答えを教えれば、その仕事は前に進みます。でも、次に別の難しい仕事にぶつかったとき、また答えを待つことになるかもしれません。一方で、自分がどこで止まっているのかを捉え、わからないことを細かくし、次にできることを見つけられるようになれば、少しずつ自分で仕事を前に進められるようになります。
人材育成で本当に増やしたいのは、「たくさん教わった人」ではなく、難しいことにぶつかったときにも、自分で次の一歩を見つけられる人なのだと思います。
そういう人が増えていけば、上司がすべての答えを持ち、毎回指示を出す必要もなくなっていきます。「わかりません」で止まるのではなく、「ここまではわかっています。ただ、ここから先の判断基準がないので相談したいです」と言える。あるいは、「ここがわからないので、まずこれを試してみます」と自分から動ける。
それは、一人ひとりの成長だけではなく、チームの仕事の進め方そのものを変えていくはずです。
人材育成は、知識を足す仕事だと思われがちです。でも、それと同じくらい大切なのは、すでに持っているものと、まだ持っていないものの境界を、本人が自分で見つけられるようにすることではないでしょうか。
難しいものに出会ったとき、大きなまま抱えない。自分がわかっているところまで戻り、わからないことを細かくして、一つずつ進めていく。
その積み重ねが、結果として粘り強く仕事を進めることにつながります。
まずは今日、誰かから「わかりません」と相談されたときに、「どこまではわかっている?」と聞いてみてください。あるいは、自分自身が仕事に行き詰まったときでも構いません。
あなたはいま、どこまではわかっていて、どこから先がわかっていないでしょうか。
そこが見えれば、次の一歩も見えてきます。
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「研修や1on1は実施しているのに、人がなかなか育たない」「もっと一人ひとりが自分で考え、動ける組織にしたい」と感じている方は、ぜひ一度ご相談ください。
自社の組織にどんな課題があるのか、まだうまく言葉にできていない段階でも構いません。まずは現在地を一緒に整理するところから、お話しできればと思います。
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