企業は、何を競争力にすれば、10年後も選ばれ続けるのでしょうか。
この十年、企業を取り巻く環境は大きく変化しました。AIは文章を書き、画像を生成し、プログラムを組み、多くの業務を支援できるようになっています。これまで専門性だと思われていた知識や技術も、少しずつ誰もが使えるものへと変わり始めました。
新しい技術は、やがて誰もが使えるようになります。業務の効率化も、情報へのアクセスも、時間が経てば大きな差別化にはなりません。もしそうだとすれば、企業の価値を決めるものは、テクノロジーそのものではないはずです。では、その違いは、どこで生まれるのでしょうか。
Bulldozerは、最初からこの問いを考えていたわけではありません。私たちの出発点は、「どうすれば新しい価値を生み出せるのか」という、もっとシンプルな問いでした。
2014年頃、AIが人間の知能を超える転換点として「シンギュラリティ(技術的特異点)」という言葉が語られ始め、アート思考やデザイン思考にも注目が集まっていました。効率的に正解を導き出すことよりも、まだ存在しない価値を構想する力が、人間に求められる時代になる。私たちも、その流れの中で「創造性とは何か」というテーマに向き合い続けていました。
しかし、多くの企業やプロジェクトに関わる中で、一つの違和感を覚えるようになります。優れたアウトプットを生み出している組織を見れば見るほど、その違いは個人の能力だけでは説明できなかったからです。
私たちの関心は、いつしか「優れた人材とは何か」という問いから、「優れた価値が生まれ続ける環境とは何か」という問いへと変わっていきました。
さらにその環境を見つめ続けると、もう一つ共通するものが見えてきます。
それは制度でも、評価制度でも、オフィスでもありませんでした。その企業が何を信じ、何を大切にし、どのような判断を積み重ねてきたのかという、一貫した世界観です。言い換えれば、それは企業の「文化」でした。
しかし、文化は偶然生まれるものなのでしょうか。それとも、企業の意思によって育てることができるのでしょうか。
私たちは、その答えを探し続ける中で、「Culture Engineering(カルチャーエンジニアリング)」という考え方にたどり着きました。
Culture Engineeringとは、企業文化を飾り立てることではありません。企業のオリジンを起点に、人が価値を生み出し続ける環境を設計すること。
この記事では、Bulldozerがどのような思考の変遷をたどり、この考え方に行き着いたのかをお話しします。
0から1を生み出すのは、「才能」だけなのか
2014年頃、私たちが向き合っていたのは、「0から1を生み出す力」でした。
当時は、AIが人間の知能を超える転換点として「シンギュラリティ(技術的特異点)」という言葉が盛んに語られていた時代です。AIによって多くの仕事が代替される未来が現実味を帯びる一方で、「人間にしかできないことは何か」という問いが、さまざまな場面で議論されるようになっていました。
その頃、私たちが関心を持っていたのが、アート思考やデザイン思考です。
既存の正解を導き出す力ではなく、まだ存在しない価値を構想し、形にしていく「0から1」の創造性こそが、人間に残された価値ではないかと考えていました。
当然、その中心には「才能」があります。新しいアイデアを生み出す人、誰も思いつかなかった視点を持つ人、周囲を巻き込みながら価値を形にしていく人。私たちは、そうした才能をどう伸ばせるのかを考え続けていました。
しかし、多くの企業やクリエイターと向き合う中で、一つの疑問が生まれます。同じように才能がある人でも、その才能を発揮できる人と、できない人がいるのはなぜだろう。能力だけでは説明できない違いが、確かに存在していました。
そこで私たちの問いは変わります。「才能をどう伸ばすか」だけではなく、「才能が自然と爆発する環境をどうつくるか」。 この二つを切り離して考えることはできないのではないか。そう考えるようになったことが、Culture Engineeringという思想の原点になっています。
才能が爆発する組織には、共通点があった
「才能が自然と爆発する環境」とは、どのような環境なのでしょうか。私たちは、さまざまな企業の組織づくりや変革に伴走する中で、その答えを探し続けてきました。業界も規模も異なる企業に向き合う中で、新しい価値を生み出し続ける組織には、ある共通点があることに気づきます。
それは、優秀な人材を集める仕組みではありませんでした。むしろ印象的だったのは、優れた人やアイデアが、その組織へ自然と集まってくるという現象です。「この会社で挑戦したい」「この人たちと一緒に価値をつくりたい」。そんな思いを持った人たちが集まり、新しい出会いが生まれ、その出会いがまた新しい挑戦へとつながっていく。私たちは、この人や才能を自然と引き寄せる力をGravity(重力)と呼ぶようになりました。
なぜ「Gravity」という言葉なのか。そこには、私たちなりの考えがあります。重力は、誰かが力を入れて生み出すものではなく、そこに存在しているからこそ自然と働く力です。企業も同じように、「人を集めよう」と意識しているから人が集まるのではなく、その会社のあり方そのものが、人や才能を惹きつけることがあります。
採用活動やブランディングはもちろん大切です。しかし、それだけでは説明できない会社が存在します。そこには、その会社らしい考え方や価値観があり、その世界観に共感した人たちが自然と集まってくる。Gravityとは、世界観が人を惹きつけることで生まれる現象だったのです。

世界観の源泉は、「オリジン」にある
では、その世界観は、どこから生まれるのでしょうか。
私たちがたどり着いた答えは、オリジンです。
オリジンという言葉を聞くと、創業時のストーリーや会社の歴史を思い浮かべる方もいるかもしれません。しかし、私たちが考えるオリジンは、それだけではありません。
オリジンとは、その会社が「なぜ存在するのか」という存在理由であり、「何を実現したいのか」という意思です。何を大切にし、何を美しいと考え、どのような未来を目指すのか。その企業らしい意思決定を支える、すべての出発点だと考えています。
企業は毎日、無数の意思決定をしています。どんな人を採用するのか。どんなサービスをつくるのか。誰と仕事をするのか。どんなオフィスで働くのか。一つひとつは別々の判断に見えても、その根底にある考え方が揃っている企業には、一貫した世界観が生まれます。そして、その世界観が、やがて人を惹きつけるGravityへと育っていきます。
だから私たちは、ブランディングを「見た目を整えること」だとは考えていません。ロゴやWebサイトをつくることでもありません。ブランディングとは、その企業のアイデンティティを明らかにし、オリジンに基づいた意思決定を積み重ねていくこと。 その積み重ねによって世界観が育ち、企業らしさが形づくられていくのです。
オリジンについて考え続ける中で、私たちはもう一つ大切なことに気づきました。
企業には、それぞれのオリジンがあります。同じように、働く一人ひとりにも、その人だけのオリジンがあります。何を実現したいのか。どんな価値を生み出したいのか。何を大切にしながら生きていきたいのか。その答えは、一人ひとり異なります。
そして、会社のオリジンと、個人のオリジンが重なったとき、人は仕事を「やらされるもの」ではなく、「自分が実現したいこと」として捉え始めます。
私たちは、この「会社のオリジン」と「個人のオリジン」が重なる状態を、「自分ごと化」と考えています。
人は、自分ごとになった瞬間に、驚くほど主体的になります。指示されたから動くのではなく、自ら考え、試し、学び、周囲を巻き込みながら価値を生み出していく。才能とは、生まれ持った能力だけではなく、自分ごとになった環境の中でこそ、本来の力を発揮するものなのだと、私たちは考えるようになりました。
ただし、自分ごと化は、精神論だけで起こるものではありません。会社のオリジンが言葉になっていること。個人が自分自身の価値観や意思と向き合えること。そして、その二つが重なる接点を、対話やプロジェクトの中で見つけられること。そうした条件が整って初めて、人は組織の目指す未来を「自分のこと」として捉えられるようになります。
だから私たちは、「才能をどう伸ばすか」だけではなく、「才能が自然と発揮される環境をどう設計するか」を考えます。オリジンを明らかにし、対話の場をつくり、時間や空間、仕組みまでを一つの思想として設計することで、自分ごと化が生まれやすい環境をつくる。それこそが、私たちが考えるCulture Engineeringという思想の原点です。
そして、この考え方は、Bulldozerの仕事そのものにもつながっています。
私たちがプロジェクトの最初に最も時間をかけるのは、デザインでも、システムでもありません。まず向き合うのは、「この会社は、何のために存在しているのか」という問いです。
私たちが「要件定義」を重視する理由も、ここにあります。
一般的な要件定義は、機能や仕様を整理する工程として捉えられることが少なくありません。しかし、Bulldozerが考える要件定義は、その前にある「何を実現するためのプロジェクトなのか」を明らかにするプロセスです。
企業のオリジンを言葉にし、その思想をブランドや組織、サービス、空間へと一貫してつないでいく。私たちにとって要件定義とは、仕様を決めることではなく、その企業らしい未来を設計するための出発点なのです。

文化は、「時間」と「空間」が育てる
オリジンが明確になれば、それだけで文化は育つのでしょうか。
残念ながら、よい理念があっても、文化として根づかない組織を私たちは数多く見てきました。素晴らしいビジョンを掲げていても、働く人の行動や意思決定が変わらなければ、その理念は少しずつ形骸化してしまいます。オリジンは文化の出発点ではありますが、それだけで文化になるわけではありません。
私たちがさまざまな組織と向き合う中で見えてきたのは、文化を育てているものには共通点があるということでした。それが、「時間」と「空間」です。
ここでいう「時間」とは、勤務時間のことではありません。どのような対話を重ねるのか。どんな問いを立てるのか。誰と議論し、どのようなプロセスで意思決定をするのか。その時間の積み重ねが、少しずつ組織の文化を形づくっていきます。
時間は、誰にでも、どの企業にでも平等です。
だからこそ、限られた時間を何に配分するのかという判断には、その企業が何に価値を置いているのかが表れます。目の前の効率を優先するのか。それとも、対話や学び、新しい挑戦のために時間を使うのか。その選択の積み重ねが、やがて企業らしい文化になっていきます。
だから私たちは、ワークショップやブレインストーミングを大切にしています。それは、アイデアを生み出すためだけではありません。異なる価値観を持つ人が出会い、対話を重ね、お互いの視点に触れることで、新しい発想や挑戦が生まれる時間を設計するためです。
AIは、知識を整理し、分析し、文章を書くことができます。その能力は、これからもさらに高まっていくでしょう。一方で、人と人が偶然に出会い、その場の対話から新しい価値が生まれる瞬間までは設計できません。だからこそ、AI時代だからこそ、人が人と出会い、インスピレーションを受ける時間は、これまで以上に価値を持つと私たちは考えています。
そして、文化を育てるもう一つの要素が「空間」です。
私たちは、人は自分で思っている以上に空間から影響を受けていると考えています。どこで働くのか。どんな景色を見ながら過ごすのか。偶然誰と出会い、どんな会話が生まれるのか。その積み重ねは、人の行動を変え、組織の文化へとつながっていきます。
私たちは、オフィスを単なる働く場所だとは考えていません。
少し大胆な表現かもしれませんが、企業にとってオフィスは、宗教における神殿のような存在ではないかと考えています。
神殿は、祈るためだけの場所ではありません。その空間に足を踏み入れた瞬間、「ここはどんな価値観を大切にしている場所なのか」が自然と伝わるようにつくられています。建築、光、天井の高さ、装飾。そのすべてが、人の心を動かし、その場所の世界観を伝えるために存在しています。
例えば、中世ヨーロッパの教会にあるステンドグラスもその一つです。文字を読める人が限られていた時代、ステンドグラスは聖書の物語や価値観を人々へ伝える役割を担っていました。空間は、言葉以上に思想を伝えることができる。 人は昔から、そのことを知っていたのだと思います。
企業も同じではないでしょうか。
オフィスとは、仕事をするためだけの場所ではありません。その会社のオリジンや哲学を、働く人も、訪れた人も自然と感じられる場所です。どんなアートを飾るのか。どんな動線をつくるのか。偶然会話が生まれる場所はあるのか。その一つひとつが、その会社らしい文化を育てていきます。
だから私たちは、オフィスを「価値の震源地」だと考えています。
Culture Engineeringとは、文化そのものをつくることではありません。オリジンを起点に、時間や空間、対話や意思決定までを一つの思想として設計し、人が価値を生み出し続ける環境を育てていくことです。
文化は、掲げるものではなく、育っていくものです。そして、その文化は偶然生まれるのではなく、人の営みを支える時間と空間の積み重ねによって育まれていきます。だから私たちは、文化ではなく、文化が育つ環境を設計したいと考えています。

Culture Engineeringは、終わりのない設計である
オリジンを見つけることは、ゴールではありません。
本当に大切なのは、そのオリジンが日々の意思決定に息づき、時間の使い方や空間のあり方、組織の仕組みへとつながっていくことです。その積み重ねが文化となり、人を育て、新しい価値を生み出していきます。
だから私たちは、文化は「つくるもの」ではなく、「育て続けるもの」だと考えています。
AIはこれからも進化を続け、多くの仕事を効率化していくでしょう。一方で、人と人が出会い、対話し、新しいインスピレーションが生まれる瞬間は、人にしか生み出せません。
だからBulldozerでは、オリジンを見つけることから始めます。
対話を重ね、ワークショップを行い、ときにはアート思考も取り入れながら、その企業らしい思想を言葉にする。そして、その思想をブランドや組織、プロダクト、オフィス、働き方へと一貫してつないでいく。
私たちが設計したいのは、文化そのものではありません。
オリジンを起点に、人が育ち、新しい価値が生まれ、その価値がまた次の人を育てていく。そんな循環が自然に生まれ続ける環境です。
それが、私たちの考えるCulture Engineeringです。
この記事の冒頭で、私たちは一つの問いを投げかけました。
「企業は、何を競争力にすれば、10年後も選ばれ続けるのでしょうか。」
私たちは、その答えはオリジンにあると考えています。
あなたの会社が、10年後も選ばれ続けるために。
その会社にしかないオリジンを見つけ、その会社らしい文化が育ち、人も企業も成長し続けられる環境を、一緒に設計してみませんか。
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