こんな変化に、心当たりはないでしょうか。
新しい提案を聞いたとき、「それは現場では難しい」と考えることが増えた。異業種の成功事例を見ても、「うちには当てはまらない」と感じる。年下のメンバーから新しいアイデアを聞いても、「経験が違うから」と受け流してしまう。
もし一つでも思い当たることがあるなら、それは能力が落ちたからではありません。専門性を積み重ねてきたからこそ起こる、とても自然な現象です。
AIによって、仕事の前提が大きく変わり始めています。文章を書くことも、情報を整理することも、分析することも、これまで専門家だけが担ってきた仕事の一部は、AIが支援してくれる時代になりました。
そんな時代だからこそ、「専門性はもう必要ない」と考える人もいます。しかし、私たちはそうは考えていません。AI時代だからこそ、専門性はこれまで以上に重要になると考えています。ただし、一つだけ条件があります。それは、専門性を「持っている」ことではなく、それを更新し続ける能力を持っていることです。
スマートフォンは、毎年アップデートされます。OSが更新されなければ、新しいアプリは動きません。専門性も同じです。どれだけ優れた知識や経験があっても、それを更新し続けなければ、変化する時代には対応できなくなります。
では、あなたの専門性は、今もアップデートされ続けているでしょうか。自分では変化に前向きなつもりでも、知らないうちに「専門性」が壁になってしまうことがあります。まずは、現在地を確認してみましょう。
あなたの専門性はアップデートされていますか?
ここで一つ、簡単なセルフチェックをしてみましょう。これは能力を測るものではありません。自分の専門性が、今も外の世界とつながっているかを確認するためのチェックです。
□ 同業以外の情報を、毎月取り入れている
□ 専門外の人と定期的に話す機会がある
□ 最近、自分の考えが変わるような経験をした
□ AIを使って、自分の仕事を見直したことがある
□ 異業種のイベントやコミュニティに参加したことがある
□ 自分より若い世代から学ぶことがある
□ 他部署や異なる専門領域の人と仕事をすることが多い
□ 「自分にはまだ知らないことがある」と思える
チェックの数に正解はありません。大切なのは、「今の自分は、どんな情報や価値観に囲まれているのか」を客観的に見つめることです。
もしチェックが少なかったとしても、悲観する必要はありません。今回お伝えしたいのは、「越境している人が優秀」ということではないからです。本当に重要なのは、自分の専門性を疑うことではなく、自分の専門性を更新し続けることなのです。
なぜ優秀な人ほど変われなくなるのか
ここで、一つの疑問が生まれます。
なぜ、経験が豊富で、専門性が高く、周囲から評価されている人ほど、変化に対応しづらくなることがあるのでしょうか。
その理由は、能力が低いからではありません。むしろ、専門性を積み重ねてきたからこそ起こる、とても自然な現象だと私たちは考えています。
古代ギリシャの哲学者ソクラテスは、「無知の知」という言葉を残しました。
「無知の知」とは、自分にはまだ知らないことがあると認めることです。 人は、自分が無知であることに気づいて初めて、新しい知識を学び、これまでの考え方を見直すことができます。
一見すると、「知っていること(専門性)」を武器にするスペシャリストとは、真逆の考え方に聞こえるかもしれません。しかし、私たちはAI時代のスペシャリストにこそ、この姿勢が重要になると考えています。
専門性を高めることは、自分なりの確固たる「ものの見方」を磨くことでもあります。営業で成果を出してきた人は営業の視点から、エンジニアは技術の視点から世界を見るようになります。専門性とは、経験を積み重ねることで育まれる、自分だけの判断軸とも言えるでしょう。
その視点があるからこそ成果を出せる一方で、過去の成功体験や一つの視点に頼りすぎると、「自分には見えていないものがあるかもしれない」という感覚は、少しずつ薄れていってしまいます。「知っている」という自信が、新しい変化への盲点を生んでしまうのです。
だからこそ、AI時代に本当に求められる専門家とは、過去の「答えを知っている人」ではありません。
「自分はまだ知らないことがある」と認め、自らの専門性をアップデートし続けられる人。
その姿勢こそが、新しい技術や異なる価値観を柔軟に受け入れ、変化の激しい時代を生き抜く力につながっていきます。
「成長し続けるスペシャリスト」と「変化が止まるスペシャリスト」の違い
では、専門性を更新し続けられる人と、変化が止まってしまう人の違いはどこにあるのでしょうか。
私たちは、多くの企業で組織変革や新規事業に携わる中で、一つの共通点に気づきました。
成長し続けるスペシャリストほど、自分の中に「余白」を残しています。
その余白があるからこそ、年下のメンバーからも学べる。異業種の取り組みにも素直に驚ける。そして、「うちの会社でも活かせないだろうか」と、自分の専門性を更新する材料を探し続けています。
一方で、変化が止まってしまう人は、自分の専門性を守ろうとします。
新しい情報に触れても、「うちには関係ない」「業界が違うから」と無意識に線を引いてしまう。その瞬間、専門性は武器ではなく、外の世界を遮る壁になってしまいます。

専門性の差が成長を分けるのではありません。他者から学ぶ「余白」の大きさが、成長を分けるのです。
そして、その余白を広げるために必要なのが、「越境」という考え方です。
「余白」を広げる鍵は、「越境」にある
では、その「余白」は、どうすれば広げることができるのでしょうか。
私たちは、その答えの一つが「越境」にあると考えています。ここでいう越境とは、転職や海外留学のような大きな変化だけを指すものではありません。異業種の人と話すこと、普段関わらない部署と仕事をすること、自分とは異なる価値観に触れること。そうした経験を通じて、自分の「当たり前」を見つめ直すことです。
だから私たちは、専門家は定期的に「旅」に出るべきだと考えています。ここでいう旅とは、観光のことではありません。越境を通じて、自分とは異なる価値観や文化、人と出会い、自分の「当たり前」を見つめ直すことです。その経験が、自らの専門性をもう一度育て直し、新しい視点を取り込むきっかけになります。
専門性は、一人で机に向かっているだけでは更新されません。人との出会いや違和感、そして対話を通じて、自分の考え方が少しずつ変わっていく。その積み重ねが、新しい専門性を育てていくのです。
越境は、日常の中から始められる
越境というと、特別な挑戦をイメージするかもしれません。しかし実際には、専門性は日々の小さな越境によって更新されていきます。
例えば、普段話す機会のない部署の人と話してみる。専門外の本や記事を読んでみる。AIに「この仕事は、これからどう変わると思う?」と問いかけてみる。昨日まで触れてこなかった価値観に出会うだけでも、自分の視野は少しずつ広がっていきます。
そこで私たちは、日常の中で実践できる「越境チェックリスト」を作ってみました。すべてを実践する必要はありません。大切なのは、昨日までの自分にはなかった視点を、一つでも持ち帰ることです。

「あの人を嫌いにならない」というマインドセット
先日、組織の中で自身をアップデートし続けている方に、「変革を進める中で、理解されない相手とどう向き合っていますか?」と尋ねる機会がありました。
返ってきた答えは、とてもシンプルでした。
「”あの人を嫌いにならない”と決めること。」
最初は短い言葉だと感じました。しかし、その意味を聞いていくうちに、組織変革だけでなく、人が学び続けるためにも大切な考え方なのではないかと思うようになりました。
新しい価値観を組織へ持ち帰ると、すぐに受け入れられるとは限りません。相手にも、その人なりの経験や背景があり、守ろうとしているものがあります。その前提を理解しようとする姿勢があるからこそ、本当の意味での対話が生まれ、新しい価値を一緒につくっていけるのではないでしょうか。
相手を変える前に、相手を理解しようとすること。その姿勢もまた、自分の専門性を更新し続けるための「余白」の一つなのだと思います。
個人だけでなく、組織にも「越境」を設計する
ここまで、個人が専門性をアップデートする方法についてお話ししてきました。しかし、本当に組織として変化し続けるためには、個人の努力だけに頼ることはできません。
私たちは、組織にも「越境」を設計する視点が必要だと考えています。例えば、普段接点のない部署同士が対話するワークショップや、新規事業をテーマにしたプロジェクト、役職や専門領域を越えて意見を交わす場づくりなどです。そうした偶然の出会いや対話が、人の中にある「余白」を広げ、組織全体の専門性を少しずつアップデートしていきます。
Bulldozerでも、部署や役職、専門領域を越えた対話が自然に生まれるワークショップや組織づくりをご支援しています。個人の成長だけではなく、「学び合える環境そのもの」を設計することも、これからの組織には欠かせない要素だと考えています。
まとめ
AIは、これからも進化を続けていくでしょう。
だからこそ、私たちに求められるのは、AIに負けない専門性ではありません。専門性を更新し続けられる力です。
そのためには、自分の知らない世界へ足を運び、自分とは異なる価値観に触れ、自らの専門性を問い直し続けること。そして組織としても、そうした越境や対話が自然に生まれる環境を設計していくことが重要になります。
専門性は、一人で磨くものではありません。人との出会いによって育ち、対話によって深まり、越境によって更新されていくものです。
この記事では書ききれなかったこと
今回は、「成長し続けるスペシャリスト」をテーマに、その考え方をご紹介しました。
一方で、Spotify・YouTubeでは、記事では紹介しきれなかったエピソードや実体験もお話ししています。
例えば、
- なぜ「専門家は定期的に旅に出るべき」という考え方にたどり着いたのか
- 4年かけて新規事業のステージゲートを本業の制度へ実装したリアルな裏側
- 「あの人を嫌いにならない」という言葉に込められた、本当の意味
- AI時代に「越境」が組織変革を加速させる理由
など、この記事だけでは伝えきれなかった内容を、実体験を交えながらお話ししています。
組織づくりや人材育成に携わる方はもちろん、「専門性を磨き続けたい」「変化し続けられる人でありたい」と考えている方にも、きっとヒントになる内容です。
ぜひ、Spotify・YouTubeでも続きをお楽しみください。
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